MMX(Martian Moons eXploration)に関する CNES との実施取り決めの締結、署名式で出された配布資料を HTML 化しました。
発行元 : JAXA 東京事務所 April 10, 2017

MMX ミッションの目的と意義


欧米各国による火星探査は、
・火星の表面環境の歴史は?
・どのようにして火星大気は失われたか?
・何が気候変動を引き起こしたのか?

などを目的として実施されています。
 

 


太古の火星(左)と現在の火星

Credit: NASA's Goddard Space Flight Center
画像掲載ウェブ:
” Visionlearning ? Your insight into science ”- Visionlearning Web

 

そもそも、なぜ火星に水・大気があったのか?

火星の水の起源?

しかし、そもそも、なぜ火星に水や大気があったのだろうか?太陽に近い高温領域で形成される地球型惑星では、水、有機物等の揮発性物質は失われ、カラカラに乾いた状態で形成されるはず。
 

Image caption :
Illustration by Jack Cook, Woods Hole Oceanographic Institution
 

どのように地球型惑星に水が運ばれ、生命居住可能な環境を作り上げたのか?

太陽系内での水の輸送

雪線(スノーライン)の外から運ばれた水、有機物等の揮発性物質が地球型惑星領域を生命居住可能な環境に変えた。これらの物質輸送には、小惑星、彗星、その破片、塵が重要な役割を果たしたと推測される。
 

Image caption :
Image Credit: The International Astronomical Union/Martin Kornmesser
 

このプロセスを確認するためには、我々どこへ行くべきか?

火星衛星:火星を周回する小天体

火星は地球型惑星領域の入り口。その過程を目撃してきたはず。火星の衛星はフォボス(直径23km)とダイモス(直径12km)。火星の周りに存在していなければ、ただの小惑星と認識されたであろう。
 

Image caption :
火星の衛星:フォボスとダイモス
Image Credit: NASA/JPL-Caltech University of Arizona
 

火星衛星は、太陽系内での水の輸送を担ったカプセルではないか?

火星衛星の起源:太陽系内の水輸送カプセル?

火星衛星の起源はわかっていない。「捕獲小惑星説」と「巨大衝突説」の二つの説があるが、理論的には、どちらが優位とは言えない。
 

Image caption :
捕獲小惑星説:もともと遠方に存在していた小惑星が、他天体との衝突などにより軌道が変わって火星周辺に飛来し、火星重力に捕まった、とする説。
Image Credit: 東京工業大学地球生命研究所 黒川宏之
 

Image caption :
巨大衝突説:火星に大規模な天体衝突が生じ、その破片が火星軌道に散らばった後で、これらが再集積して形成した、とする説。
Image Credit: 東京工業大学地球生命研究所 黒川宏之
 

火星衛星探査では、火星衛星の起源論をリターンサンプルにより決着させる。

捕獲小惑星説:衝突前の水輸送カプセルのサンプルを入手

巨大衝突説:水輸送カプセルの破片と、形成期の火星の混合サンプルを入手


ミッションの目的(惑星科学)

初期の太陽系、地球型惑星は、カラカラに乾いた状態で形成された。どのように地球型惑星に水が運ばれ、生命居住可能な環境を作り上げたのか?は、惑星科学の最重要課題である。

スノーラインの外から運ばれた水、有機物等の揮発性物質が地球型惑星領域を生命居住可能な環境に変えた。これらの物質輸送には、小惑星、彗星、その破片、塵が重要な役割を果たした。

地球型惑星領域の入口にある火星、その周りにある小天体フォボスとダイモス。火星衛星は、太陽系内での水の輸送を担ったカプセルではないか?

火星衛星サンプルリターンミッション(MMX)は、
・火星衛星の起源論を決着させるとともに、
・火星そして地球型惑星における、生命居住可能な環境の形成過程に、新たな描像を与える。

※ 副目的 :
火星衛星および火星表層の変遷をもたらすメカニズムを明らかにし、火星衛星を含めた“火星圏”の進化史に新たな知見を加える。
 

ISAS の小天体探査戦略(スノーラインの外で生まれた小天体)

スノーラインの外で生まれた小天体。最初は彗星的であり、その後、多様な姿に進化する。これらの天体が運ぶ水、有機物等の揮発性物質は、地球型惑星を生命居住可能にするために必須であった。

ISAS は、シリーズ的に、これらの天体を探査する。
 

Image Credit: JAXA
 

これまでの火星衛星探査

火星衛星の調査は火星探査草創期から繰り返し行われているが、副次的なフライバイ観測にとどまる。火星衛星を目指した探査はいずれも到達に失敗。現時点で、実現見込みのある他国の火星衛星探査計画はない。


NASA の Viking 1号軌道船が1978年に撮像したフォボス

反射スペクトルから炭素質小惑星との近縁性が指摘された。またクレーター密度から、天体の年齢が太陽系年齢と同程度であることが示唆される。

2011年に打ち上げられたロシアのフォボス探査機 Phobos-Grunt は、打ち上げ直後の不具合により地球脱出に失敗。現時点で、再打ち上げの見込みはたっていない。

Data supplied by NSSDC

 

ミッションの目的と意義(太陽系探査技術)

本計画における宇宙工学の役割は、第一義的には、惑星科学ミッションの技術的実現を図ること。加えて、宇宙工学自身の使命、「より遠くへ、より自在に」の観点から、本ミッションで獲得する太陽系探査技術について、目標を設定している。
 

1. 火星圏への往還技術および惑星衛星圏への到達技術を獲得する(宇宙航行)。

2. 火星衛星表面への到達技術・滞在技術および天体表面上での高度なサンプリング技術を獲得する(ロボティクス)。

3. 新探査地上局との組合せた高速通信技術を獲得する(深宇宙通信)。


これらの技術は、小惑星探査と火星探査をつなぐものであり、「はやぶさ」「はやぶさ2」で日本が培ってきた得意技術を更に深化する機会となる。非重力天体と重力天体の中間として技術開発の適切な中間ステップであり、将来の火星周回・着陸探査に向けた布石ともなり得る。

ミッション概要 | ミッションの目的と意義