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次世代太陽探査

天体の衝突物理の解明(VII)「巨大天体衝突過程とその影響」参加報告

Updated : October 31, 2016 - 天体衝突物理

日本惑星科学会誌「遊星人」 Vol. 21, No.1, 2012 掲載

黒澤耕介(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)

この原稿元ファイル:[ 日本惑星科学会誌「遊・星・人」第21巻(2012)1号 - PDF ]
衝突研究会ウェブサイト:[ 天体の衝突物理の解明 (VII) 「巨大天体衝突過程とその影響」発表要旨等
 

1. はじめに

「弾丸は画面右から左に向かって飛んできます」画面右からゆっくりと弾丸が飛来し標的に衝突する.1 コマ目の衝突閃光に続いて,標的にはクラックが伝播し,大小様々に砕け散った破片が吹き出す.「おぉ…」高速度カメラによって取得された迫力ある映像に,感嘆の息を漏らす者,「うーん」自分の予想と違っていたのか首を傾げる者,様々である.雪の舞う北海道であったが,日本中で衝突研究が(もしかしたら世界中でも…?)一番熱い場所であった.

2011年11/17~11/19 にかけて,” 北海道大学低温科学研究所 ” にて第 7 回「天体の衝突物理の解明」の研究会が行われた.今回は「巨大天体衝突過程とその影響」と題し,数値的な手法で巨大衝突の研究に取り組んで来られた和田桂一さん,玄田英典さんを講師にお招きし,それぞれのご研究について語って頂いた.三日間の日程で招待講演 2 件を含む 29 件の口頭発表と 14 件のポスター発表が行われ,活発な議論が行われた.講演時間は 1 講演あたり 30 分で,講演途中での質問は自由である.本稿では講演の概要と研究会の様子を筆者自身の感想も交えてお伝えする.少しでも研究会の空気感を感じ取って頂ければ幸いである.本稿で紹介する内容は筆者の理解にとどまっている.各講演の要旨と発表スライドは ” 衝突研究会 ” の HP にアップされている.興味を持たれた方はまずはそちらを参考にして頂き,必要があれば講演者に直接問い合わせて欲しい.
 

2. 講演概要・研究会の様子
 


図 1. 集合写真.
 

以下に研究会のプログラムを示す.
 

表 1 : 天体の衝突物理の解明(VII)のプログラム.

11/17
杉田精司(東大新領域) 「ユゴニオ曲線上の半解析的状態方程式」
荒川政彦(神戸大理) 「10 km / s を超える衝突速度でのクレーター形成実験」
中村昭子(神戸大理) 「鉄隕石の衝突破壊」
 
保井みなみ(神戸大自然) 「普通コンドライト隕石母天体を模擬した石膏・ガラスビーズ混合体の衝突破壊実験」
門野敏彦(阪大レーザー研) 「低密度エアロジェルへの衝突・貫入過程の高速カメラ撮影」
永木恵太(阪大理) 「高強度レーザーによって衝撃圧縮された鉱物の変成分布」
 
大野宗祐(千葉工大PERC) 「炭素質隕石の衝突蒸発とそれによる環境変動」
池崎克俊(阪大理) 「炭素質コンドライト模擬物質を用いた衝突実験」
菅原春菜(名大環境) 「アミノ酸の衝撃化学ー出発温度を変えた実験ー」
 
11/18
鈴木絢子(CPS) 「粉体への衝突実験で見られるランパート風地形の形成過程」
道上達広(福島高専) 「弾丸・標的のサイズ比と衝突破片速度の測定」
小林直樹(ISAS/JAXA) 「インパクトと月震にまつわる何か」
 
石原吉明(国立天文台RISE) 「「かぐや」の測月データで推定した月衝突盆地の構造と月進化」
上本季更(東大/ISAS) 「SPA 盆地の構造と月内部組成」
大竹真紀子(ISAS/JAXA) 「月と地球のバルク Mg# 値比較から考えるジャイアントインパクト」
 
招待講演
玄田英典(東大) 「月形成衝突のレビューと SPH 法による最新の結果」
和田桂一(鹿児島大理工) 「巨大衝突仮説シミュレーション再訪」
 
森薗宏太(東大地惑) 「格子法による 3 次元ジャイアントインパクトシミュレーション」
黒澤耕介(ISAS/JAXA) 「珪酸塩の状態方程式と月形成巨大衝突」
藤田航(東大新領域) 「土星系中型質量衛星における多様性の起源:SPH 流体コードを用いた巨大衝突のシミュレーション」
 
11/19
高木靖彦(愛知東邦大) 「玄武岩標的を用いたクレーター形成実験」
小林正規(千葉工大PERC) 「圧電性 PZT を使った宇宙塵検出器の開発」
平田成(会津大理工) 「Rubble-Pile 天体形成と小惑星のサイズ分布」
 
藤田幸浩(名大環境) 「ラブルパイル天体の衝突破壊強度に関する実験的研究」
羽山遼(神戸大理) 「複数回衝突が及ぼす氷ターゲットの衝突破壊強度への影響」
嶌生有理(名大環境) 「等質量氷ダスト球の衝突付着に関する実験的研究」
 
和田浩二(千葉工大PERC) 「空隙率の大きい粉体層への衝突の数値シミュレーション」
田中秀和(北大低温研) 「MD 計算による微粒子衝突時のエネルギー散逸過程の解明」
小林浩(名大理) 「衝突・破壊を考慮した惑星形成」
 
ポスター発表
保井みなみ(神戸大自然) 「フラッシュ X 線を用いた石膏への弾丸貫入とクレーター形成過程のその場観察」
岡本尚也(神戸大理) 「小惑星表面のボルダーの衝突破壊強度」
田中今日子(北大低温研) 「微惑星衝撃波による氷微惑星の蒸発」
海老名良祐(電通大) 「衝突蒸気雲の膨張速度」
亀井亮祐(電通大) 「電気通信大学における木星火球の観測」
黒澤耕介(ISAS/JAXA) 「二段式軽ガス銃を用いた開放系気相化学分析 : 炭酸塩の衝突脱ガス」
栗山祐太朗(東大/ISAS) 「天体衝突による月表層の変成」
小林正規(千葉工大 PERC) 「Dust Monitor Instrum-ent for future missions to asteroids」
高橋悠太(電通大) 「衝突閃光と黒体放射」
諸田智克(名大環境) 「衝突盆地のクレータカウントにもとづいた初期の衝突史」
千秋博紀(千葉工大 PERC) 「Levitation dust : a source of IDPs」
谷川享行(CPS/北大低温研) 「周惑星円盤の形成:原始惑星系円盤からの降着流の解析」
平田成(会津大理工) 「Experimental approach to armoring effect of cratering efficiency on boulder-rich target」
石丸亮(千葉工大PERC) 「Oxidizing proto - atmosphere on Titan: Constraint from the impact origin of its N2 atmosphere」

 

以下では筆者なりの理解で講演を 6 つに分類し,それぞれについて紹介する.
 

2 - 1. 高エネルギー密度領域における物理・化学

近年急速に発展してきた高強度レーザーを用いた衝撃圧縮&弾丸加速技術は,> 10 km / s の天体衝突の極限状況を実験室で再現することを可能にした.今回はその技術を用いたクレーター形成実験(荒川),衝撃圧減衰率計測(永木),炭素質隕石の衝突蒸発実験(大野)の結果が報告された.> 10 km / s の衝突が起こる珪酸塩でさえも蒸発/ 溶融を起こす.その潜熱の影響で衝撃波伝播過程も変化すると考えられる.そして発生した蒸気内では激しい気相化学反応が起こる.杉田はこのような実験技術の進化に柔軟に対応できる半解析的な Hugoniot 曲線の計算手法を報告した.少ないパラメータで衝撃圧縮による昇温を精度良く計算できるこの手法は,実験結果を解釈するときだけでなく,実験前に自発光の光量を予測するときにも大変有用で,筆者は博士学生の頃から散々お世話になっている.菅原は 1 段式火薬銃を使ったアミノ酸への衝突実験の結果を報告した.標的となるアミノ酸の温度を変化させ,反応速度論を用いた解析を行うことで,衝撃で発生する温度と圧力の影響を切り分けて議論しうる可能性を示唆していたのが興味深かった.
 

2 - 2. 巨大衝突

今回の主題である巨大衝突に関しては招待講演 2 件を含む,5 件の講演があった.玄田は月形成巨大衝突研究の歴史のレビューに始まり,計算に用いる数値手法や状態方程式(EOS)の違いによる計算結果への影響を紹介し,ご自身の最新の結果も加えた講演を行った.和田は天文分野から見た月形成巨大衝突数値計算の問題点,近年の数値流体計算の発展を中心に講演を行った.Wada,Kokubo & Makino( 2006),ApJ といえば,月形成巨大衝突の問題に取り組む研究者にとっては衝撃的な論文として知られている.天文分野からこの問題に取り組むことになった経緯,論文投稿(Reviewer からのコメントも!),その後惑星分野から離れた理由などの様々な裏話を聞くことができて興味深かった.筆者が常日頃疑問に感じていた流体計算から得られた結果の解釈について,ご専門の両氏から直接考え聞くことができて,大変参考になった.森園は状態変化を取り扱えるEOS を取り入れた格子法による高精度の月形成巨大衝突計算結果について報告した.先行研究で指摘されていた渦状衝撃波による月材料物質の地球落下を抑えられることがわかり,先行研究における問題は数値計算手法の問題である可能性が高いことを指摘した.黒澤は実験研究の立場から月形成巨大衝突計算に使われている EOS の不定性について報告した.藤田はSPH 法を用いた数値流体計算を行い,巨大衝突で土星衛星系の多様な氷/ 岩石比を説明する可能性について報告した.原始太陽系の進化における巨大衝突の役割はまだまだ残っており,研究テーマ発掘の可能性を感じた.
 

図 2. 講師の和田桂一氏を囲んだ議論の様子.
 

 

2 - 3. かぐやの成果

月周回衛星「かぐや」のデータの解析結果について口頭 3 件,ポスター 1 件の講演があった.改善された地形/ 重力場モデルを用いた衝突盆地形成過程に対する考察(石原),月面最大の衝突クレータとされている SPA 盆地の衝突メルトプールのサイズ推定(上本),分光観測結果に基づく月面 Mg# マップ(大竹)が報告された.衝突盆地がどのように形成されたのかは未だによくわかっていないが,これらがいつ,どのような衝突条件で形成されたかを知ることは,原始太陽系の初期軌道進化を制約する上で重要な制約を与えるはずである.月科学研究者と衝突研究者が議論し合う場の重要性を再認識した.また諸田はポスターでクレータ年代学から制約される後期隕石重爆撃期の衝突質量の上限について報告した.それは従来の推定よりも大幅に少ない値であり,多くの人の注目を集めていた.
 

2 - 4. 衝突破壊,小惑星

小惑星帯の天体たちは幅広い分野の研究者の興味を引く研究対象である.中村,保井,藤田は標的に様々な工夫を施し,小惑星帯で起こっていたと思われる衝突破壊現象の再現実験の結果を報告した.標的が複雑になると結果も途方もなく複雑になるのだが,物理過程を考慮し適切な Scaling を施すと結果が一本の線に整理されてくる.この過程は衝突実験の醍醐味ではないだろうか.小林(浩)はこういった実験結果を基に,衝突破壊による質量欠損も考慮した微惑星成長モデルを報告した.室内実験を微惑星成長過程に適用するための便利な計測量の公表の仕方などについても活発な議論が行われた.平田は小惑星帯の天体について現在明らかとなっている物理的計測量(サイズ頻度分布,空隙率,形状,自転速度)を整理し,小惑星の未解決問題に取り組むための道筋を提案した.小惑星帯はまだまだ研究テーマの宝庫であるな,と感じた.
 

2 - 5. 衝突素過程・衝突起源(?)地形のアナログ実験

衝突現象を支配する素過程に注目した講演も多く行われた.標的内のコンドリュールが衝突破壊に与える影響(池崎),撃ちだされた弾丸が形成する大気渦輪によるクレーターリムの崩壊(鈴木),火星,月面に見られる縦穴の形成条件(道上),衝突に伴う地震波励起とその探査への応用(小林(直)),強度支配域におけるクレータのスケーリング則(高木),圧電素子を用いた衝突励起地震波の検出法(小林(正)),標的内クラックが衝突破壊に及ぼす影響(羽山),高空隙率氷球同士の衝突付着(嶌生),分子動力学法を用いた微粒子衝突時のエネルギー散逸過程の検討(田中(秀))が報告された.特に嶌生の実験は,これまで実験的困難のために理論研究が先行していたダストの衝突付着成長による微惑星形成研究に,新たな展開をもたらすものであるように感じた.また小林(正)の実験手法は小林(直)の提案した衝突地震学に使えそうなものであり,研究会の場で衝突科学の新たな一分野が産まれつつあることを目の当たりにすることができた.
 

2 - 6. 空力加熱・流体抵抗

今回の衝突研究会の主題は「巨大衝突」であったが,個人的には流体抵抗(速度の 2 乗に比例する抵抗)を受けながら高速で運動する物体に対して引き起こされる物理・化学過程に関する研究が,急激に勢いを増している印象を受けた.低密度エアロジェルへの衝突貫入過程のその場観察とモデル化(門野),DEM を用いた粉体層への弾丸貫入とその抵抗則(和田),Flash X 線を用いた石膏への弾丸貫入過程のその場観察(保井,ポスター),原始惑星系円盤ガス中の超音速氷微惑星の蒸発(田中(今),ポスター),Titan 大気への氷衛星突入で引き起こされる化学反応(石丸,ポスター)の 5 件の講演があった.エアロジェルを用いたサンプルリターンやペネトレータによる探査計画立案のために必要不可欠な研究であるだけでなく,高空隙率微惑星への他天体への貫入は小惑星帯天体における未解明なエネルギー / 物質流入過程である.一方で流体抵抗によって失われたエネルギーに着目すれば,氷微惑星の蒸発や Titan の大気進化といった惑星形成論に関わるような議論に発展する.こういった研究は主に航空工学の分野で盛んに行われており,豊富な蓄積がある.空力加熱・流体抵抗をキーワードに他分野との研究交流,相補的な発展が望めるのではないか,と感じた.
 

3. ポスターセッションの様子

11/17と11/18の夕方からはポスターセッションの時間も設けられた.特に初日は懇親会を兼ねていたので,料理& お酒を片手に白熱した議論があちこちで行われていた.よく冷えたビールに加えて,筆者が普段呑んだことないような珍しくて美味しいお酒が多数用意されており(今年は特に色んな種類が揃っていたような…),すっかりいい気分になってしまった.会場は広くはないが,発表者を見つけて話を聞きやすかった.実は筆者はこの2 - 3 年,このポスター会場でとある人を捕まえて,自分のポスター前で研究の話を聞いてもらい,ヒントを得るのを楽しみにしている.狭い会場で,お酒が入ると良い話を聞けるものである.
 

4. まとめ

例年のことであるが講演中に議論が飛び交い,大幅に時間をオーバーしながら 3 日間の日程を終了した.今年は自分の研究と主題が近かったこともあり大変有意義な研究会であった.また今年は例年に比べて理論研究と実験研究の交流,そして研究室の壁を超えた交流が見られるようになってきた印象を受けた.この傾向は是非来年度以降も続いて欲しいと思う.最後になるが,衝突は惑星科学研究のいたるところに顔を出す現象である.色々なバックグラウンドを持った研究者の新規参入は大歓迎である.本研究会に興味を持って頂けた方は,是非参加してみてほしい.
 

図 3. 懇親会の様子.
 

 

謝辞

この研究会を開催するにあたり尽力頂いた研究会の世話人の方々に御礼申し上げます.また大変面白い話題を提供して下さった講演者の方々,講演会場の環境整備をして下さった低温科学研究所の皆様に感謝致します.本報告中の写真は保井みなみさんに提供して頂きました.文中の敬称は省略させて頂きました.
 

 

 

CATEGORY: 次世代太陽系探査

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