The Planetary Society of Japan

次世代太陽系探査

エポックメイキングな隕石たち(その 3):Yamato-74159 ポリミクトユークライト

Updated : June 23, 2017 - 太陽系形成・生命起源

日本惑星科学会誌「遊星人」 Vol. 23, No.2, 2014 掲載
山口 亮:国立極地研究所

この原稿元ファイル:[ 日本惑星科学会誌「遊・星・人」第23巻(2014)2号 - PDF ]
 

 

要旨

連載第 3 回では,分化隕石の Yamato-74159 隕石を紹介する.この隕石はユークライトに分類され,分化小惑星の表層近くの岩石片からなるポリミクト角礫岩である.このような隕石の構成物質の岩石学的及び化学的特徴から,原始惑星の地殻発達史が明らかにされてきた.
 

1. はじめに

図 1:Yamato-74159 の写真.破断面に,角礫岩の組織がみられる.隕石のまわりの黒い部分は,大気圏突入時にできた溶融皮殻である.立方体の一片は,1 cm である.

1969年12月に,第 10 次南極地域観測隊により,やまと山脈付近の裸氷体において,9 個の隕石が発見された.これは,第一回目の記事で紹介された Allende 隕石の落下,そして,アポロの月着陸と同じ年である.この発見以来,南極では大量の隕石が見つかり,現在では地球上で確認されている隕石総数の 70 % をしめる.隕石は,我々が手にすることの出来る地球外物質のほとんどをしめ,惑星や太陽系形成史の解明に大きな役割を果たしてきた.Yamato-74159 隕石(Y-74159)は,第 14 次南極地域観測隊により,1974年に同じ地域の裸氷帯で発見された.

 

図 2:Yamato-74159 の薄片写真.右側 2/3 は,に玄武岩岩石片である.白い棒状の結晶は斜長石で,それに挟まれたものが輝石である.黒い部分は,ガラス質のメソスタシスである.左側は,破砕し固結した部分である.玄武岩や鉱物の破片からなる.横幅 6.9 mm.

Yamato-74159 隕石は,玄武岩質ユークライトに分類される隕石で,小惑星の中で 3 番目に大きいベスタ(直径 530 km)に由来すると考えられている.Yamato-74159 隕石(回収時の重量:98.2 グラム)は,ポリミクト角礫岩(複数の種類の岩石破片の混合物)である(図 1,2).熱変成作用を受けていない玄武岩質ユークライト岩石片を多く含むことで知られている.このような玄武岩は,溶岩が原始惑星表面に噴出し急冷したものだとされる[1].例えば,ハワイのキラウエア火山から噴出する溶岩のようなものである.
 

 

2. 分類

ユークライトは,HED(ホワルダイト・ユークライト・ダイオジェナイト)隕石と総称される分化隕石の一つである.HED 隕石は,分化隕石の中では最大のグループで,現在確認されている全隕石の約 6 %(1430 個,2014年02月現在)をしめる.

ユークライトは,主にピジョン輝石と斜長石からなる玄武岩もしくはハンレイ岩である.副成分鉱物として,シリカ鉱物,イルメナイト,クロマイト,自然ニッケル鉄,トロイライトなどを含む.ダイオジェナイトは,主に輝石からなる集積岩である.ホワルダイトは,主にユークライトとダイオジェナイトの機械的な混合物である.ほとんどすべてが,衝突の影響を受けている.

Y-74159 隕石は,他にペアとされる隕石を含めて,Y-74159 タイプ・ポリミクト角礫岩(Y 74159 タイプ)と総称される.これまでに,7 個ほど確認されている.これらの隕石は,隕石シャワーとして落下したものと考えられる.

1970 - 80年代当時発見されていたユークライトの,ほとんどすべては,熱変成作用を受けたものであった.ところが,Y 74159 タイプの主な構成岩石片は,変成作用を受けていない始原的な玄武岩である.その当時,熱変成作用を受けていない玄武岩質ユークライトは珍しく,唯一,Pasamonte というユークライトが知られていた.
 

3. HED 隕石と小惑星ベスタの関係

現在では,HED 隕石は,小惑星 4 ベスタからきたとされている.ベスタは,太陽系初期に存在した分化原始惑星の生き残りである.未だに原始地殻を保持している唯一の分化原始惑星とされている.太陽系初期には,微惑星から惑星形成の途中に,このような原始惑星が多数存在していたと考えられる.なお,小惑星ベスタ以外の天体に由来する,HED 隕石に類似する隕石も数個確認されている.

HED 隕石がベスタから来たと言われる理由は,いくつかある.地上の望遠鏡による赤外分光観測から,ベスタ(とベスタ族)は,HED 隕石と鉱物組み合わせと鉱物組成が類似する唯一の小惑星であるといっても良い.衝突によってベスタから放出された小惑星(ベスタ族)は,小惑星軌道の脱出ルートである軌道共鳴まで散らばっている.この領域にはいった小惑星は,領域外にはじき飛ばされることが知られている.近地球型小惑星にも,ベスタに似た小惑星が見つかっている.さらに,地球において,他の隕石種に比べ,HED 隕石は異常と思えるほど高い個数が回収されている.その回収量は,分化隕石では最大であり,全隕石種では,普通コンドライトに次ぐ数である.これらの理由から,ベスタは,地球に大量の HED 隕石を供給した(現在も供給し続けている)と考えられる.

2011年に,探査機 DAWN がベスタを訪れ,詳細な表面観測を行った[2].その結果,ベスタの表層地質は,HED 隕石から推定されるものと非常に良い一致を示すことがわかった.DAWN の重要な成果の一つは,南半球に巨大クレーター(Rheasilvia, 直径約 500 km)が見つかったことがある.この巨大クレーターから放出された地殻の破片がベスタ族であり,最終的には,その破片が地球において HED 隕石として回収されたとも言われている.この巨大クレーターの底には,マントル物質(カンラン岩)が見つかっておらず,これも,HED 隕石に,カンラン岩が見つかっていないということと調和的である.
 

4. 成因と意義

Y 74159 タイプは,ベスタ表層付近の玄武岩からなる角礫岩である.この岩石片に含まれる輝石や斜長石は,広い組成範囲にわたる化学的ゾーニングを示すが,これは熱変成作用をほとんど受けていないことを示唆する.これは,大部分のユークライトが,熱変成作用を受け,輝石の Mg/Fe が均質な組成を示すのと対照的である.ところで原始地殻は,溶岩流が地表に噴出し,固化し,それが積み重なって成長していくとされる.したがって,初期に噴出したものほど深く埋没し,熱変成作用を受ける.逆に,後期に噴出したものは,表層付近にとどまるため,熱変成作用を免れる.Y 74159 タイプのものは,このような理由で溶岩の始源的な特徴を保持するものと考えられる.

ユークライトは,母天体全体が融解したために生じたマグマ大洋の中で,結晶分化後の残液が地表に噴出したものだと考えられている[2].こうして,ほとんどの玄武岩質ユークライト(メイングループと呼ばれる)の化学組成は,一つのマグマ(つまり,マグマ大洋)中での結晶分化過程で説明される.しかしながら,Y 74159 タイプは,主要元素組成(鉄,マグネシウムなど)がメイングループに類似しているにもかかわらず,微量不適合元素(チタンやサマリウムなど)の含有量が相対的に高く,この化学的特徴は,長い間,マグマ大洋モデルでは説明できなかった.

最近,この化学的特徴は,メイングループマグマが,先に形成した地殻の部分融解により生じた液により,汚染を受けたという説が提出された[3].この説では,Y 74159 タイプのユークライトの化学組成が,非常に良く説明できる,また,最近見つかった残渣ユークライトの存在が説明できる.残渣ユークライトとは,主要元素が玄武岩質ユークライトに類似するのに,Y 74159 タイプとは逆に,不適合元素が欠乏しているユークライトである.部分融解の残渣だとされる.多くのユークライトの変成温度(~900 - 1000 ℃)は,ソリダス温度(~1050 - 1100 ℃)近傍であることに調和的である.

そうすると,Y 74159 タイプに含まれる玄武岩は,地殻形成後期に噴出したことになる.なぜならば,Y 74159 タイプのマグマは,既に形成していたユークライト地殻と反応しなければならないからである.これは,Y 74159 タイプの変成度が低い,すなわち,後期に噴出したことに調和的である.もし,この仮説が正しいとすると,メイングループユークライトなどに比べ,形成年代が新しいことになる.今後の,精密な放射年代測定が待たれる.

最近の詳細な研究によると,Y 74159 タイプのユークライトは,溶岩から固まった後に,二次的プロセスの影響を受けたことがわかった.輝石の縁に,鉄かんらん石や微量の二次的な斜長石が見つかった.Y 74159 タイプのユークライト限らず,多くの HED 隕石に,二次的なメタソマティズムの痕跡が見つかっている.ある種の流体が関わったことが指摘されているが,その詳細なメカニズムは良くわかっていない.いずれにせよ,Y 74159 タイプの隕石は小惑星ベスタの表層付近の複雑な地質史を記録している岩石である.
 

謝辞

木村眞氏,岡崎隆司氏からはこの原稿執筆の機会を与えて戴いた.また木村眞氏,野口高明氏,武田弘氏には粗稿を読んで戴いた.岸山浩之氏には,隕石の写真撮影をして頂いた.これらの方々にこの場をお借りして感謝いたします.
 

参考文献

[1] Takeda, H., 1997, Meteoritics & Planetary Science 32, 841.
[2] McSween, H.Y. et al., 2013, Meteoritics & Planetary Science 48, 2090.
[3] Yamaguchi, A. et al., 2009, Geochimica et Cosmochimica Acta 73, 7162.

 

 

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