The Planetary Society of Japan

次世代太陽系探査

エポックメイキングな隕石たち(その 5):Almahata Sitta 隕石~落ちてきた不均質小惑星 “ 2008 TC3 ”~

Updated : June 23, 2017 - 太陽系形成・生命起源

日本惑星科学会誌「遊星人」 Vol. 23, No.4, 2014 掲載
宮原 正明:広島大学理学研究科

この原稿元ファイル:[ 日本惑星科学会誌「遊・星・人」第23巻(2014)4号 - PDF ]
 

 

要旨

地球に接近・衝突する可能性がある近地球型小惑星(Near Earth Objects:NEO)は,NASA を中心とした NEO program によりその発見,軌道予測,データベース化が進められている.この NEO program により地球落下前に発見され落下の軌道予測に成功した例が一つだけある.それが2008年に地球に落下した小惑星 “ 2008 TC3 ” であり,その破片は後に回収され “ Almahata Sitta 隕石 ” と呼ばれている.ところで,多くの隕石は一種類の隕石種からなる.一方,Almahata Sitta 隕石の場合,複数の異なる隕石種の岩片を含む(ユレイライト,普通コンドライト,エンスタイトコンドライト,炭素質コンドライト)ことが分かっている.本稿では小惑星 “ 2008 TC3 ” の発見・落下の経緯と上記のようなユニークな特徴を持つ “ Almahata Sitta 隕石 ” の研究から明らかになった小惑星 “ 2008 TC3 ” の構造と成り立ちを紹介する.
 

1. はじめに

2013年02月15日,ロシアに Chelyabinsk 隕石が落下した.落下に伴う衝撃波が地上にまで達し,多くの人が割れたガラス等で傷つき,建物にも大きな被害が出た.幸いにも Chelyabinsk 隕石の大部分は都市部から離れた湖や森林地帯に落下したため隕石本体の衝突による人的・物的被害は免れた.しかし,観測網に探知されることなしに 20 m 近い天体が地上に落下したこの事件は天体衝突が人類にとって大きな脅威であることを知らしめた.こうした地球に接近・衝突する可能性がある近地球型小惑星(Near Earth Objects:NEO)は,NASA を中心とした NEO program によりその発見,軌道予測,データベース化が進められている.この NEO program により地球落下前に発見され落下の軌道予測に成功した例が一つだけある.それが2008年に地球に落下した小惑星 “ 2008 TC3 ” であり,その破片は後に回収され “ Almahata Sitta 隕石 ” と呼ばれている.ところで多くの隕石は一種類の隕石種からなる(例えば,Chelyabinsk 隕石は LL5 普通コンドライト).一方,Almahata Sitta 隕石の場合,複数の異なる隕石種の岩片を含む(ユレイライト,普通コンドライト,エンスタイトコンドライト,炭素質コンドライト)ことが分かっている.本稿では小惑星 “ 2008 TC3 ” の発見・落下の経緯と上記のようなユニークな特徴を持つ ” Almahata Sitta 隕石 ” の研究から明らかになった小惑星 “ 2008 TC3 ” の構造と成り立ちを紹介する.
 

2. 小惑星 “ 2008 TC3 ” の落下とその破片の回収

NEO program には NASA を中心として各国の様々な機関が参加している.米国のアリゾナ州にあるカタリナ天文台もその一つである.2008年10月06日,カタリナ天文台のスタッフが NEO の観測を行っていたところ,小惑星 “ 2008 TC3 ” (後に命名される)を発見した.直ぐに “ 2008 TC3 ” の軌道計算が行われ,地球への衝突コースにあると判明した.この情報は直ぐに上位機関である NASA へ送られ,より精度の高い軌道計算が行われた.その結果, “ 2008 TC3 ” は10月07日02時45分にスーダン北部のヌビア砂漠に落下すると結論付けられた. “ 2008 TC3 ” の大きさは 2 - 5 m 程度と見積もられた.この乗用車程度の大きさの天体の地球への落下情報は,米国だけでなく各国に “ 警報 ” として送られ,世界中の天文台や天文家により “ 2008 TC3 ” の追跡が始まった.そして NASA の計算通り,07日02時45分40秒にスーダン北部の大気圏に突入し,その 5 秒後に高度 37 km で爆発した.この爆発の瞬間は欧州の人工衛星の赤外像に捉えられた. “ 2008 TC3 ” の落下後から,スーダンの大学と NASA を中心とした探索チームが編成され, “ 2008 TC3 ” の破片の探索が始まった.その結果,初期の探索で多くの破片(約 4 kg)が回収された(後にも回収が続けられている)(図 1).

図 1:ヌビア砂漠で回収された Almahata Sitta 隕石(a ~ f).[1]

“ 2008 TC3 ” の破片が回収された地域は砂漠であり,鉄道駅(アラビア語で Almahata Sitta = 第六鉄道駅)以外にこれといったランドマークがなかったため,Almahata Sitta がその破片(=隕石)の名前なった[1].こうして “ 2008 TC3 ” は人類史上初めて落下の事前予測とその破片の回収に成功した天体となった.
 

 

3. Almahata Sitta 隕石

図 2:粗粒ユレイライト(Almahata Sitta MS-170)の反射光学顕微鏡写真.オリビン(Ol)と輝石(Pyx)の粒子間隙をダイヤモンド(Dia)とグラファイト(Gra)が埋めている.

最初に述べたように Almahata Sitta 隕石は様々な隕石種を含んでいる.その中で最も数が多いのはエコンドライトの一種である超苦鉄質岩(ほとんどがオリビンや輝石からなる岩石),“ユレイライト”である.Almahata Sitta 隕石中のユレイライトは異なる化学組成の砕屑岩の混合物で構成されるポリミクトユレイライトであり,個々の破片ごとにその岩石学的・鉱物学的特徴が大きく異なっている.Almahata Sitta 隕石のユレイライトを肉眼で或は光学顕微鏡で観察すると空隙が目立つ.一般的なユレイライトの空隙率が 9 % 程度であるのに対して,Almahata Sitta 隕石のユレイライトの空隙率は 25 - 37 % と非常に高い[2].Almahata Sitta 隕石のユレイライトは主にオリビンと輝石で構成されるが,粗粒なオリビンと輝石粒子からなる粗粒ユレイライト,細粒な粒子からなる細粒ユレイライトに分けられている.ユレイライトの特徴の一つとして多くの炭素を含む点がある.すなわちユレイライトの母天体は炭素に富む天体であることを示唆している.Almahata Sitta 隕石のユレイライトでもグラファイトやダイヤモンドがオリビンや輝石の粒子間隙を埋めるように存在している(図 2).

図 3: 粗粒ユレイライト(Almahata Sitta MS-170)に含まれるダイヤモンド(Dia)の反射光学顕微鏡写真.グラファイト(Gra)よりもダイヤモンドの方が硬いため,表面研摩した試料ではダイヤモンドの部分のみが凸状になっている.

粗粒ユレイライトの中からはこれまで発見されたものに比べてはるかに大きい数十マイクロメートルのダイヤモンドが報告されている(図 3).ユレイライト中のダイヤモンドの成因としては,ユレイライトの母天体が他の天体と衝突した際に発生した高圧力条件下でグラファイトから生成したとする説が現在最も有力である.しかし,Almahata Sitta 隕石に含まれる数十マイクロメートルオーダーのダイヤモンド生成を衝撃変成説で説明するのは難しく,原始太陽系雲内でのガスからの直接生成(化学的気相成長)やユレイライト母天体内部での生成の可能性も議論されている[3].なお,これまでに発見されたユレイライトはユレイライト母天体のやや深い部分(マントル)を構成していた物質と推定されているが,最近,Almahata Sitta 隕石の中からユレイライト母天体の地殻を形成した火成活動に関連すると考えられる安山岩に似た隕石も発見されている[4].

図 4:H5/6 タイプ普通コンドライト(Almahata Sitta MS-11)の反射電子像.主にオリビン(Ol),輝石(Pyx),長石(Fd),鉄ニッケル合金(Fe)から構成される.黒い部分は空隙に相当する.

Almahata Sitta 隕石の中でユレイライトについで多いのは H グループの普通コンドライト(図 4)とエンスタイトコンドライト(図 5)である.エンスタイトコンドライトはさらに EH と EL に分けられるが,Almahata Sitta 隕石にはその両方が含まれている.さらに,コンドライトは熱変成度の違いによりタイプ 3~6 に分けられる. Almahata Sitta 隕石の EH と EL はどちらも異なる熱変成度を示す岩片を含む(例えば,EL3,EL6,EH3 など).これら以外としては,炭素質コンドライト(図 6)と R タイプコンドライトに類似するものも報告されている.このように Almahata Sitta 隕石に含まれる隕石種は大変複雑で種類が多く,その全容の解明にはまだまだ時間がかかるとみられる.
 

図 5:EL3 タイプエンスタイトコンドライト(Almahata Sitta MS-17)の反射電子像.主にオリビン(Ol),輝石(Pyx),鉄ニッケル合金(Fe)からなる.

 

図 6:Cb タイプ炭素質コンドライト(Almahata Sitta MS-181)の反射光学顕微鏡写真.主に鉄ニッケル合金(Fe),硫化鉄(FeS),オリビン(Ol),輝石(Pyx)から構成される.

 

4. 小惑星 “ 2008 TC3 ” の不均質な構造と成り立ち

前項で述べたように Almahata Sitta の隕石種は大変複雑で種類が多い.それはすなわち,“ 2008 TC3 ” が複数の異なる隕石種で構成されていたことを示唆している.Almahata Sitta 隕石に含まれていたものは主要なものだけでもユレイライト,普通コンドライト,エンスタイトコンドライトである.それぞれの隕石種は本来固有の母天体で形成されたと考えられることから,それぞれの母天体が天体衝突で破壊され,飛散した破片が再集積して形成されたのが “ 2008 TC3 ” であろう[5](図 7).

図 7: 小惑星 “ 2008 TC3 ” の成り立ちの概略図.

このような複数の隕石種の岩片から構成される隕石としては Almahata Sitta 隕石以外には Kaidun 隕石が報告されているのみである[6].惑星間空間にはアルベドと反射スペクトルが異なる様々なタイプの小惑星が無数に存在している.現在の小惑星はそれらが衝突,破壊と再集積を繰り返して形作られたと考えられる.これまでの様々な隕石やイトカワ試料の研究から,同一の起源をもつ天体同士の衝突とその破片の再集積が主要な天体の進化過程であろう.一方,Almahata Sitta 隕石に含まれていた多様な隕石種岩片が示唆する不均質性は起源の異なる母天体同士の衝突が起き,その破片が再集積することによっても天体が形成されている可能性を示す.Almahata Sitta 隕石はその発見と落下の経緯がドラスティックであったが,小惑星進化史の新たな側面を解き明かすエポックメイキングな隕石でもある.
 

謝辞

木村眞氏,野口高明氏,岡崎隆司氏からこの原稿執筆の機会を与えて頂き,粗稿を読んで頂きました.東北大学の大谷栄治氏,独バイロイト大学の Ahmed El Goresy 氏,スイス連邦工科大学の Philippe Gillet 氏には試料を提供して頂いた.この場を借りて皆様に感謝いたします.
 

参考文献

[1] Jenniskens, P. et al., 2009, Nature 458, 485.
[2] Bischoff, A. et al., 2010, Meteoritics & Planetary Science 45, 1638.
[3] Miyahara, M. et al., 2013, 44th LPSC, 1425pdf.
[4] Bischoff, A. et al., 2014, Proceedings of the National Academy of Sciences U.S.A. 111, 12689.
[5] Goodrich, C. et al., 2014, Elements 10, 31.
[6] Zolensky, M. and Ivanov, A., 2003, Chemie der Erde Geochemistry 63, 185.

 

 

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