The Planetary Society of Japan

次世代太陽系探査

特集「広報・アウトリーチ」~ 産学官連携による惑星科学アウトリーチの試み ~

Updated : July 15, 2017 - 太陽系惑星科学の勧め

日本惑星科学会誌「遊星人」 Vol. 23, No.4, 2014 掲載
宮本 英昭、洪 恒夫、関岡 裕之、James M. Dohm、新原 隆史、洪 鵬、逸見 良道、清田 馨、小熊 みどり、菊地 紘、平田 直之(東京大学・総合研究博物館)

この原稿元ファイル:[ 日本惑星科学会誌「遊・星・人」第23巻(2014)4号 - PDF ]
 

 

要旨

猛烈な勢いで進む太陽系探査の成果を一般に紹介することは,若い世代の知的好奇心を鼓舞するのに有効であるし,探査の意義に関する一般の理解を深める一助にもなりえる.そこで私たちは大学博物館の一員として,太陽系科学/探査に関するアウトリーチ活動を試みた.若い世代に対象を特化したスクール・モバイルミュージアムと,より多くの人材にアプローチできるアミューズメント施設における展示活動を通じて,産学官の連携によって互いにメリットがあるアウトリーチの形が存在しうることを示した.
 

1. 太陽系博物学とアウトリーチ

現代は惑星科学の革命期にある.人類は既に 60 個以上の天体に 120 機以上の探査機を送り込み,膨大な探査データの獲得に成功した.特に近年の探査の進展は目覚ましく,新たな探査機が次々と打ちあがるさまは,かつての大航海時代を彷彿とさせるほどだ.当時,船舶の改良や新航路を発見することで諸外国から様々な交易品を得たように,より高度な観測装置を積んだ探査機を駆使した人類は,太陽系に関する知見を次々と獲得している.

天然に存在するものを収集・分類する試みは太古から行われてきたが,このように自然に関する知識を獲得し体系化する作業を「博物学」と呼ぶ.15 世紀以降,新大陸に飛び出し自然の多様性を認識できたことは,博物学の発展においてきわめて重要な要素であった.これと同様に,探査によって明らかになった太陽系内天体の百般の姿は,博物学の新たな幕開けを予感させる.探査データの丹念な解析により天体ごとの特徴をつぶさに記載することができるのだから,これらを分類し比較することは,地球を含めた太陽系天体の姿を知るための重大なステップとなるだろう.太陽系探査やその成果に関する研究は,「太陽系博物学」とも呼ぶべきあたらしい学問体系の構築につながると私たちは考えている[1].

太陽系科学に関連したさまざまな分野の研究者は,大雑把にはこの「太陽系博物学」を推進していると見なすこともできる.そのために探査技術の開発や取得したデータの解析,周辺分野も含めた基礎研究を積み上げるのはもちろんだが,より広い視野を持って太陽系探査を戦略的に進めていくことこそ重要である.だがコストの高い太陽系探査を推進するには,科学的・技術的な意義のみならず,広く一般市民から支持されるものでなければならない.

NASA や ESA ではこうした理由もあって,広報教育(Education and Public Outreach: EPO)に膨大な労力を割いており,専門の職員のみならず広く研究者や技術者に機会を与え戦略的にこれを進めている[e.g., 2].JAXA もまた専門部署を設置し,さまざまな活動を行っている.こうした宇宙機関による広報活動は,有人探査や宇宙工学に焦点をあてたものが多いが,これらが一般市民に,ときに熱狂を持って受け入れられているという事実と,高額なコストを特に工学的な側面が必要とすることを考えると,戦略としても正しいのだろう.一方で太陽系博物学を進める上で重要となることは,有人であれ無人であれ,より科学的に本質的な問いに答えるような探査の機会をより多く持つことであり,そのためには多くの人々に本物のサイエンスを提示し,宇宙探査の意義を問うことが重要である.アウトリーチに対して科学者が持つひとつのインセンティブが,ここにある.
 

2. 大学博物館の位置づけ

宇宙探査や宇宙科学に関する情報は,日本ではテレビ・新聞を中心としたマスメディアが重要な伝達手段となっている.宇宙機関等により配信されるプレスリリースに沿った報道を行うだけではなく,ある程度深い内容まで議論するものもある.後者では,やる気に満ちたメディアの担当者を中心として,研究者が携わりながら質の高い番組や特集記事を作り上げているケースが見られる.また,研究者や広義のサイエンスコミュニケーターらによるオンラインのコンテンツや一般向け書籍・雑誌でもタイムリーに情報がまとめられることがあり,極めて充実したものもある.さらに宇宙機関や科学館等における展示活動や,サイエンスカフェ等におけるトークイベントなどを通じて,研究者自身により直接社会へ向けて情報発信を行うことも実施されており,どの活動も社会一般の科学リテラシー向上に広く貢献していると考えられる.

こうした状況は国際的に見てもかなり先進的であると私たちは考えるが,高度な情報を迅速に提供するという意味では,二つのさらなる課題が挙げられる.まずマスメディアを中心とする情報発信は,たとえ研究者が関与したとしても,あくまでメディア目線で一般市民受けする内容に編集される,という点である.これはわかりやすく情報を咀嚼するという意味で決して否定されるべきことでは無いが,担当者の知識や理解力に情報の質が依存してしまうことは,潜在的な問題点といえる.もうひとつは,科学全体の進歩を概観し,かつ次々ともたらされる新発見を,その位置づけと共に発信することが,高度な専門性を持たない限り極めて困難であるという点である.アメリカやイギリスでは,博士号を持つ専門性の高い人材もしくは研究者自身がこの部分を担当しているのだが[e.g., 3],日本ではこうした観点から活動を行っている人材はそれほど多くはない(少数でも,きちんとした活動を精力的に行っている人材はあるのだが[e.g., 4],迅速に広く社会に発信するという点においては限られた人材を効果的に活用できていないのかもしれない[5]).また個人や大学のレベルで効果的な公開活動を行うことは困難である.というのも,やはり多くの人々に直接アプローチすることは難しいし,次々と惑星科学の常識が塗り替えられるような状況は,書籍などの媒体を利用して情報を発信するには不向きだからだ(twitter やブログ等,オンラインでの情報発信において,これらの問題をうまく克服している例もある[e.g., 6]).

こうした状況におけるひとつの試みとして,東京大学総合研究博物館では研究者自身が企画した展示公開という形で先端科学を一般に発信する事業を行っている.私たちはその一環として,2008年から毎年のように惑星科学に関連した展覧会を企画してきた[e.g., 1, 7, 8, 9].大学においてこのような活動を行うと,予算は限られてしまうのだが,展示そのものには制約が極めて少ないため,研究者の理想とする形を好きなように展開することができる.そこで私たちは,高度な先端科学の成果を科学的文化的に俯瞰することを重視し,プロの科学者であっても見応えがあるような,メッセージ性の高い展覧会を目指している.空間や展示デザインも凝り,JCD デザインアワード 2008 ベスト 100 [10] や,SDA 賞 2010 サインデザイン[11] への入選などを果たした.

ただし対象を広く一般市民へと広げるという部分は,このような展覧会であっても大学における活動では困難を伴う.私たちが企画した展覧会は,ほぼ全てについて新聞やテレビなどで特集を組んでいただいたが,それであっても大手メディアや広告代理店などとの協力で開催されている大規模な展覧会と比べれば,メディアへの露出度は圧倒的に少ない.それならばメディアの協力を得れば効率的かというと,研究者の一存で自由に構成できるという大学のアウトリーチ活動における最大のメリットを損ねてしまう可能性がある(宇宙機関が組織として行う場合には,こうした協力体制はむしろ適切な方策であるように思える).
 

3. スクール・モバイルミュージアム

そこで私たちは逆に,少数であってもよいから若い世代に,より直接,より強烈な形でアプローチすることを考えた.その一つの解が,「スクール・モバイルミュージアム」プロジェクトである.これは大学博物館で行ったような本格的な展覧会を,小学校の教室サイズにブレイクダウンして,小学生でも楽しめるように内容を組み直すというものである.少子化傾向のために全国の学校が空き教室を持て余していること,学校の教室は規格化されているということを鑑み,いったん学校教室に最適化した展示を作成すれば,安価に全国に展開することができると考えたのだ.

私たちの限られた研究費(運営費)を利用して手作りで作り上げた展覧会を,まずは文京区立湯島小学校に展開した.予算こそ限られていたが,日本有数の展示空間デザインの専門家である洪恒夫によってハイセンスにデザインされた空間に,惑星科学の専門家である宮本が最先端科学のコンテンツをもたらし,ディスプレイデザイン賞などの常連である関岡によるデザインを施す.この科学的にもデザイン的にも極めて高度な空間は,そのコンセプトと共に2012年度のキッズデザイン賞[12]を受賞した(図 1).このプロジェクトはマスメディア等で大々的に報道されながらも,展覧会の内容は全て研究者の手に委ねられており,訪れる人に対しては,企画者の意図した内容を確実に提示することができた.

下図 1:スクール・モバイルミュージアムの様子(左:火星展,右:鉄展).ごく普通の小学校の空き教室が展覧会の会場へと変った.


展覧会の来訪者となる児童にとっては,思いがけないイベントだ.ある日突然,見慣れた学校の教室が展覧会会場へと変貌しているのだから.ここに,もう一つの隠された意図がある.それは各家庭の事情によらず全児童にアプローチできることだ.日本には極めて質の高い教育資源が存在しているのだが,残念ながらいわば意識の高い保護者の元でないと,それらに触れる機会が少なくなってしまう.そのため隠れた秀才を発掘するには,いわば「普通の子」に直接アプローチすることが重要であるはずだ.この意味で,スクール・モバイルミュージアム・プロジェクトは,ある程度の成功を収めつつあるように思う.全校児童に対するアンケートによると,展示期間の三か月間だけでも,100 回近くも足を運んだ児童も居たのだ.児童や保護者,教員らからも熱烈と言えるような大歓迎のコメントが得られ,回答者の 90 % 以上が極めて好意的に受け止めたと回答した.

この草の根のような活動は,他の展覧会と比べると予算規模は、はるかに小さいのだが,それでも私たちの限られた研究費だけに頼っていては長続きしない.趣旨を理解し,ある意味文化活動として支援してくれる団体が必要である.幸運なことに,これまでに新日鐵住金(株)や(株)シマブンコーポレーション,札幌市,文京区,宮崎県美郷町などから資金的な支援をうけることができたので,産学官連携の形で北海道から九州まで 14 回の展覧会の開催を数えた.
 

4. アミューズメント会社との協働

スクール・モバイルミュージアムは,その社会的意義や効果を理解する実験的なフェーズは既に終えており,現在は運用面での工夫が必要という状況にある.私たちは2011年頃から,この思想を失うこと無く,いかに効率を高めて多くの児童・生徒達にアプローチすべきか,という検討を行ってきた.ちょうどその頃,(株)東京ドームが所有するビルのワンフロアをリニューアルすることを検討していると聞いた.また同社のスタッフが,スクール・モバイルミュージアムへ視察に訪れ,そのコンセプトや内容を大変良く理解してくれた.こうした背景から,私たちは(株)東京ドームと協働して東京ドームシティ―内に宇宙をテーマに据えた博物館を新設する可能性を模索することとなった.

東京ドームシティは,文字通り東京の中心に位置し常に多くの人々で溢れかえっており,私たちが目指す活動を行うのに最適ともいえる場である.多くの人々に情報を伝達できるという点以外にも,普段であればサイエンスに興味を持たないような,ごく普通の児童・生徒らにもアプローチできる面が,特に魅力的であった.商業的にアミューズメント性を要求されるのではないかと思われるかもしれないが,上記のようにコンセプトの段階から同社の検討グループと密接に議論を重ね信頼を積み上げており,この部分の心配は無かった.私たちとしてはスクール・モバイルミュージアムの延長線上,(株)東京ドーム側としてはミュージアムとしての学術性の担保という側面から,このプロジェクトにおいて両者の親和性が高いという確信があった.

(株)東京ドームは,東京ドームシティ内にある「黄色いビル」と呼ばれる施設内に 2,600 m2 の施設面積を確保し,総事業費14億円を用意して(株)丹青社などと共に宇宙ミュージアム・TeNQと呼ばれる施設の準備を進めることとなった.私たちは2012年頃から(株)東京ドームと(株)丹青社と共にコンテンツの検討をはじめ,2013年末頃には学術性を確保しつつも,「見ごたえ」のある展示内容について,案を固めることができた.一方で(株)東京ドームと(株)丹青社は,この施設にとって中心的な役割を果たすシアターの設計や,アミューズメント性の高いエリアについても着々と準備を進めていった(こうした部分には,私たちは全く関与していない).

東京大学では,この事業の進め方について産学連携の立場から検討を進めた.その結果,私たちはあくまで「太陽系博物学」に関する研究を行うための専門組織となる「太陽系博物学寄附研究部門」を,(株)東京ドームの後援を得る形で東京大学総合研究博物館に新たに設置することにした(上記の通り私たちは,太陽系博物学には基礎研究とアウトリーチ活動が含まれるという認識を持っている).東京大学内の寄附研究部門設立に関する正規の手続きを経て,2014年04月にこの部門は正式に立ち上がった.この段階で直接関連する教員・研究員は,外国人研究者を含めて総勢 5 名となった.惑星探査を行ってきた者,データ解析を行ってきた者,物質科学の研究を行ってきた者,大気科学を研究してきた者など,さまざまなバックグラウンドを持つ者が公募により選ばれて集まった.
 

5. 宇宙ミュージアム・TeNQ

このような形で計画は順調に進み,予定通り2014年07月に宇宙ミュージアム・TeNQ が誕生した.大学博物館で行う予算規模の限られた展覧会と異なり,展示・空間演出においてはプロ中のプロである(株)丹青社と,アミューズメントのプロである(株)東京ドームと協働できたことは,ハードウェアに関する部分を完全に任せられるという意味で大変に効率の良い形であった.私たちは,物品の準備に煩わされること無く,純粋にコンテンツの制作に集中することができたからだ.

展覧会の会場に示すさまざまなキャプション(説明文)は,サインでも書物でも無い独特の形態のものであるが,制作の手順はレビュー論文の執筆と少し似ている.2014年04月から三か月ほどの時間をかけて,東京大学総合研究博物館・太陽系博物学寄附研究部門の研究者らは,研究者の立場から「太陽系博物学」のレビューとも言うべき文章を執筆し,これらに図表や探査データなどを組み合わせてコンテンツを作り上げていった.関連した分野の識者に徹底的なレビューを依頼し,膨大な量の探査データも収集した.こうしてできあがった展示は,いわば「太陽系博物学」展とも呼ぶべきものになったが,これを宇宙ミュージアム・TeNQ の「サイエンスコーナー」と呼ばれているスペースに,修正を要求されることもなく(大学博物館における展示と同様の感覚で)展開することとなった(図 2).

下図 2:産学連携で生まれた宇宙ミュージアム・TeNQ の会場.連日,大勢の来館者で賑わっている.


アミューズメント性の高い宇宙ミュージアム・TeNQ の中にありながら,この「太陽系博物学」展には,莫大な量の実際の探査データが示され,さらにその分野のトップランナーである研究者らによる厳密かつ包括的な解説が,日本語と英語で記されている(図 3).そこには2013年の「宇宙資源展」で私たちが開発した手法が用いられたので,特段の興味もなく通りがかった人々も内容を容易に把握できるし,一方で興味を持って立ち止まった来館者は,かなり深い内容まで把握できるように丹念に作りこまれている.高解像度デジタル表示システム(4K 以上のディスプレイなど)を多用し,ビジュアル情報を次々と切り替えているので来館者には気づかれにくいが,実は文字数でいうと約 10 万文字にも達する,極めて硬派な展示である(図 3).

下図 3:( 左)よく見ると10万文字の情報が溢れる硬派な展示となっている.(右)フルハイビジョンパネル8枚を使ったサイネージシステムを利用して,最新の情報が示されている.


こうした展示に加えて,私たちは展示会場に研究室の分室を設け,常にその場に私たち自身が留まって普段通りの研究を行うという,恐らく世界でもあまり例のない挑戦的な実験展示を行うことにした(図 4).研究を行う現場そのものを展示してしまうことで,惑星科学分野の最先端の成果を提示できる,いわば太陽系探査情報ステーションという機能を持てるという期待と,来館者にありのままの研究者の姿を見せることで「なんだ,研究というと敷居が高いと思っていたけれども,こんなものか」と感じてもらうことこそ若い世代を勇気づけるきっかけになるのではないか,という私たちの淡い期待がある.

下図 4:( 左)研究室の分室を館内に置いてあるため,来場者が研究者を観察することができる.(右)来場者による地形マッピングの実験の様子.

 

6. 今後の挑戦

宇宙ミュージアム内にある研究室分室というこの奇異な空間で,私たちは上記の目的の達成だけを目指しているわけではない.研究者として,より大切に考えているのは,世界をあっと驚かせる素晴らしい研究成果を生み出したいということだ.

その一つの案として,来館者に惑星地質学の研究の一部を負担してもらい,数十万人という予想年間来館者の労力を利用できないか,と考えた.そこで試しに2014年08月07日午前10時~午後04時までの間,惑星地形のマッピングを来館者に体験してもらった(図 4).用意したのは単にコンピュータ2台だけ.そこに表示された円形の地形に合わせて,参加者に丸を配置してもらうという単純なものだ.簡単なインストラクションを受ければ子供でも作業が行えるが,実際にはその作業は GIS(地理空間情報システム)ソフトウェアを用いたクレーターカウンティングであり,しかもその対象は,米国地質調査所(USGS)やアリゾナ大学の協力を得て準備した火星の超高解像度画像であった.実験では,総勢 50 人以上が実際にマウスを握ってマッピングを行った.一人当たり数 ~10 分程度で,作業内容を火星の写真と共にプリントアウトしお土産として手渡した.

参加してくれた人達(子供が多かった)は予想以上に真剣に作業に集中してマッピングに取り組んでくれた.ゲーム感覚で長時間にわたって熱中する子供や,こちらの想定以上に上手に作業する小学生なども居た.目を輝かせてディスプレイを見ている姿は,私たちにとっても大変印象的であった.ただしマッピングしてもらった成果自体は,各自の能力のばらつきなどもあって,このまますぐに使える形ではなかった.しかし今後はたとえば初心者用・上級者用などとマシンを分けるなどの工夫を施すことで,実際に研究に使えるような精度の高いデータの蓄積ができるのではないかと期待している.
 

7. おわりに

宇宙ミュージアム・TeNQ は2014年07月のオープン直後から,チケットの売り切れが続くなど大変な混雑を見せた.開館後2週間もたたずに年間パスが売り切れ,50 日足らずで入場者10万人を突破するなど,大学内でのイベントでは考えられないような盛況ぶりとなった.

ほとんどの来館者は,アミューズメント性の高いシアターや体験型アトラクションを楽しみに集まっているのだが,彼らは意図せずとも,私たちのこの極めて専門性の高い「太陽系博物学」展を閲覧することになり,私たちの目的達成のためにはこれ以上ないほどの環境だ.私たちは「展示物」として姿を見られているが,逆に失礼ながら来館者の行動を私たちも観察している.ひとつの発見は,膨大な量の展示マテリアルに,それが一般のミュージアム等で良く言われるような文字数の制限を遥かに超えたものであるにも関わらず,かなりの割合の方々が丹念に目を通して下さっていることだ.今後は情報のアップデートだけでなく,来館者の行動パターンに基づいた,よりわかりやすく,より質の高い科学を適切に伝えられる展示へと改良していきたい.

事業者である(株)東京ドームにとって,幅広い客層を見込めるミュージアムの学術的な支柱という意味で,私たちと協働するメリットがあるのではないかと私たちは期待している.私たち研究者にとっては,効率的なアウトリーチが行えるという意味での充実感ももちろんだが,このような事業に参加することで寄附研究部門を生み出し,共同研究者の雇用につながったという直接的なメリットも極めて大きい.またスクール・モバイルミュージアムなどでも協力してくれた文京区にとっても,それが呼び水となって結果的には文教施設を区内に増やすことができたと言える.産官学が連携することで,それぞれにとってメリットが生まれるアウトリーチ活動というものがありうることを,上記の試みは示していると考えている.
 

謝辞

本稿の内容に関連し,(株)東京ドーム,宇宙ミュージアム・TeNQ,(株)丹青社,スクール・モバイルミュージアム関係者,新日鉄住金(株),(株)シマブンコーポレーション,文京区,湯島小学校,東京大学総合研究博物館で行われた惑星関係の展覧会関係者の皆様にさまざまな形でご協力いただきました.匿名の査読者の方には,この論文だけでなく今後の活動においても大変有益なコメントをいただきました.ゲストエディターの寺薗淳也さんには,本稿執筆の機会をいただきました.ここに記して御礼申し上げます.
 

参考文献

[1] 宮本英昭 他(編), 2007, 異星の踏査-「アポロ」から「はやぶさ」まで, 東京大学総合研究博物館, 260pp.
[2] Mcfadden, L. A. et al., 2011, Space Science Reviews 163, 545.
[3] Leshner, A. I., 2007, Science 315, 161.
[4] 矢野創 他, 2001, 小天体探査フォーラム, ISASニュース 241.
[5] 寺薗淳也, 2010, 第54回宇宙科学技術連合後援会.
[6] 寺薗淳也 他, 2014, 遊星人 23, 337.
[7] 宮本英昭, 橘省吾(編), 2009, 鉄.137億年の宇宙誌, 173pp.
[8] 宮本英昭 他(編), 2010火星.ウソカラデタマコト, 175pp.
[9] 宮本英昭・清田馨(編), 2013, 宇宙資源-Pie in the sky-, 東京大学総合研究博物館, 170pp.
[10] http://www.jcd.or.jp/index.html
[11] http://www.sign.or.jp/old/award/2010/
[12] http://www.kidsdesignaward.jp/search/detail_120213c4

 

 

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