The Planetary Society of Japan

東大新報 - 惑星科学のすすめ

Modified : January 09, 2017 - 太陽系惑星科学の勧め

『東大新報』1998 掲載

廣井孝弘
ブラウン大学 地球・環境・惑星科学科上席研究員
 

序章

ここ 10 年くらいにかけて、日本では惑星科学関係の学科が増えたり、宇宙飛行士達が宇宙での活動をしたり、月・火星・小惑星などに人工衛星を送るなどどいう、日本史上始まって以来の惑星科学ブームにありました。この期間に日本の惑星科学は飛躍的発展を遂げ、惑星科学で世界のトップを行くアメリカの水準に近づいて来たと思われます。
筆者は東京大学基礎科学科で相対性理論・量子力学・太陽系生成論・結晶学などを学び、大学院では隕石の鉱物学と分光学に手掛けて、小惑星の鉱物組成と起源について研究して来ました。8 年以上前にアメリカに渡ってからは、ブラウン大学や NASA ジョンソン宇宙センターで、小惑星と隕石との深い関連性の研究や、その手段となる惑星表砂の反射分光理論などを極め、現在はブラウン大学で研究する傍ら、日本の月ミッションにおける分光カメラの計画や NASA の研究者との共同研究にも貢献しています。
この連載(*1)では、学生の皆さんに惑星科学の一端を紹介してそのおもしろさをわかってもらう一方で、アメリカの惑星科学と比較して日本の惑星科学界に存在する問題点にも触れることによって、研究者の皆さんには日本の惑星科学の将来に対して良く考え直す機会としてみたく思います。大体の内容としては以下のように予定しています。
 

1 章. 惑星科学とは何か?

惑星科学は色々な惑星について研究することを主としますが、結局もっとも面白く重要な惑星は、我々の地球です。その事をも考慮しながら、惑星科学の目的について考える題材として、現在の惑星科学の諸研究分野をざっと振り返ってみて、天文学や地球科学との関係に触れます。惑星科学の未来についても考えてみたく思います。 >> 続きを読む
 

2 章. 太陽系生成論の歴史

太陽系の惑星群の起源を物理的・力学的に取り組んできた太陽系生成論の歴史について簡単に述べ、その現状と問題点から、より実際の惑星の観察や物質の研究に基づいた、より化学的・鉱物学的な太陽系生成論への転換の必要性を説きます。 >> 続きを読む
 

3 章. 1969年:惑星科学の夜明け

惑星科学で非常に重要な出来事が多く起こった1969年について解説します。三つの出来事を簡単に列挙すると、アポロ11号による月試料の回収・南極隕石の発見・アエンデ隕石の落下です。特に南極隕石の発見は日本によってなされました。 >> 続きを読む
 

4 章. 隕石と小惑星の謎

大部分の隕石は小惑星から来たと考えられ、太陽系の起源の秘密を説く鍵と信じられていますが、各々の隕石がどこの小惑星から来たのかとか、隕石が本当に小惑星帯の物質を平均的にサンプリングしているのかとか、望遠鏡による小惑星の組成研究がどれだけ信用できるのかなどの問題がまだ多くあります。特に、隕石の 90 % 以上を占める普通コンドライトが小惑星帯に少ないように見えることと、小惑星帯に多い S 型小惑星物質が隕石中に少ないことが、歴史的に大きな問題となっており、ここではその答えを模索します。このテーマは筆者の専門分野であるので、やや長く数回に渡るかもしれません。 >> 続きを読む
 

5 章. 地球のおかれた環境からみた人類の起源と未来

地球は非常に特殊な惑星であり、その月の大きさと力学的・鉱物学的特性も特殊です。そして火星は、月や小惑星と同じく、火星隕石として物質研究が出来る対象で、小惑星帯に隣接する重要な惑星でもあります。近年、火星隕石中にバクテリアの化石を見つけたという NASA の研究者の報告などにより、生命の起源と惑星科学が注目を浴びました。惑星科学から見た地球人類の起源について、筆者なりのユニークな解説を試みたいと思います。NASA や日本の惑星探査ミッションも含めて月と火星に進出する人類の未来についても思いをはせたいと思います。 >> 続きを読む
 

6 章. 日本の惑星科学の将来

筆者個人の経験と考えに基づく日本の惑星科学界の現状と将来の方向性についての随筆です。 >> 続きを読む
 

 

 

CATEGORY: 次世代太陽系探査

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