タッチダウン付近の小惑星リュウグウ, ジオラマ模型
遊星百景 その18

道上達広
近畿大学工学部

※ この遊星人記事は、日本惑星科学会遊星人編集専門委員会より許可を得て掲載しております。
 


惑星探査機はやぶさ2は,小惑星リュウグウへの 2 回のタッチダウン(TD)に無事成功しました.今回私が作成した 1 回目,2 回目の TD 付近のジオラマ模型がそれぞれ写真 1,2 になります.多くの岩塊に覆われている様子が分かります.
 

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写真 1. 1 回目の TD 付近のジオラマ模型.
Image : 遊星人
 

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写真 2. 2 回目の TD 付近のジオラマ模型. 白い球がターゲットマーカーを示す.
Image : 遊星人
 

今回の探査機はやぶさ2で,私は ONC(光学航法カメラ)チームの一員として,小惑星リュウグウ表面にある岩塊を調べさせてもらいました [1].小惑星リュウグウ全体で,1 万個以上の岩塊の大きさ,形,位置を(頑張って?)測定しました.直径 5 m 以上の岩塊は約 4400 個存在し,衝突破片と同じような形をしていることが分かりました.これは多くの岩塊が,リュウグウ母天体の衝突破壊によって形成された破片であることを示唆しています.小惑星リュウグウの直径 10 m 以上の岩塊の数密度(単位面積当たりの数)は,これまで探査されたどの小惑星よりも多いです.
 

小惑星リュウグウで岩塊を調べる意義として二つありました.一つは,岩塊のサイズ分布,空間分布,形状分布を調べることで,小惑星リュウグウの形成過程の解明に迫るというもの.もう一つは,探査機はやぶさ2が安全に小惑星表面に着陸するために,岩塊の少ない安全な場所を探すというものです.

私は,はやぶさ初号機でも,小惑星イトカワの岩塊を調べさせてもらいました [2].小惑星イトカワの場合は,比較的,岩塊が少ない平坦な場所が 20 % 程度ほどあり,探査機が着陸する場所には困りませんでした.しかし,小惑星リュウグウの場合は特別な仕事になりました.小惑星リュウグウは,予想以上に岩塊が多く,TD する場所が全く見当たらなかったからです.探査機が小惑星リュウグウに近づくほど,より詳細な表面の画像が送られてきます.遠くから見てここは岩塊が少ないかな?と思った場所でも,近づくとほとんどが岩塊だらけの場所でした.これは,同じ解析をしてもらった会津大学の本田親寿さん,東京大学(当時は名古屋大学)の諸田智克さん,JAXA の坂谷尚哉さん,高知大学の本田理恵さんはじめ,一緒に測定した ONC チームの皆さんは同じ意見だったと思います.

皆さんご存知の通り,岩塊があまりにも多かったため,TD の戦略は練り直しになりました.結果的には当初の日程から四か月ほど遅れました.この間,小惑星リュウグウの岩塊の詳細な地図を,私たち ONC のチームで作り,JAXA の工学側にデータを提供しました.工学側では,そのデータを使って JAXA の菊地翔太さんが,TD 候補地点の安全性評価を行いました.工学のチームの方の,探査機の着陸精度を劇的に上げる努力と技術力には驚嘆の思いです.

1 回目の TD 候補地点が決まった後に,TD 付近のさらに詳細な近接画像が送られてきました.岩塊の大きさが分かったところで,次に大事なのは,探査機が岩塊に接触しないための岩塊の高さです.私たちONCチームでは,諸田さんを中心として,TD 候補地点の岩塊の影の長さから,岩塊の高さを見積もりました.同時に会津大学の平田成さんは形状モデルから岩塊の高さを見積もりました.工学側では両方の見積もりのうち,安全を考えて,大きい方の値を岩塊の高さとしました.

私も諸田さんと並行して,クロスチェック用に 1 回目,2 回目の TD 付近のそれぞれ 140 個以上の岩塊の大きさ,高さを見積もりました.せっかく見積もったので,ついでに TD 付近のジオラマ模型を作りました(写真 1, 2).

この模型は,私が玄武岩を標的として行った衝突実験において,飛び出した破片一つ一つを,下の粘着シートに貼り付けたものになります.過去の研究 [3] では,飛び出した 12700 個以上の破片の三軸比(長軸,中間軸,短軸)を,一つ一つノギスで測定しました.その多量の破片軸比リストから,今回の岩塊の軸比に合うものを見つけ,破片を貼り付けました.破片軸比リストから,合うものを見つける作業は大変で,それぞれ作成に五日間ぐらいかかっております.

1 回目の TD 地点のジオラマ模型が好評だったので,その後,NHK の鈴木有さんから連絡がありました.番組で使用したいので,2 回目の TD 地点のジオラマ模型も作ってくださいとのことでした.2 回目の TD 地点のジオラマ模型は,私の研究室の学部四年生,志比田果歩さん,橋本雄哉君,岡村裕之君が一緒に作ってくれました.ジオラマ模型の中の赤い服の人は,橋本雄哉君になります.作るのは大変でしたが,この模型は,07月11日に,NHK ニュースのおはよう日本や,同日のクローズアップ現代+,その前の07月09日は,JAXA の定例記者会見でも使って頂きました.ありがとうございます.

2020年末にはいよいよ,探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウサンプル粒子を地球に持ち帰ってきます.サンプル粒子の解析からどんなことが分かるのか,楽しみな毎日です.
 

参考文献

[1] Michikami, T. et al., 2019, Icarus 331, 179.
[2] Michikami, T. et al., 2008, Earth Planets Space 60, 13.
[3] Michikami, T. et al., 2016, Icarus 264, 316.
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Web edited : A. IMOTO TPSJ Editorial Office