ボイジャー探査機 : ボイジャー35周年 カッシーニ土星探査はその成果を確実に!しかし ...

土星は、その魅惑的なリングと多数の衛星で、長く天文学者や科学者を魅了してきた。 1979年のパイオニア11号による最初のフライバイの後、1980年代初期、二機のボイジャー探査機を通して、人類はこの複雑な惑星系を再び、つぶさに観ることになった。
 

1981年08月11日、探査機ボイジャー2号が土星に向かう途中 1390万 km 前方から撮影した画像である。土星の中緯度(画面右下)には、斑状の台風の渦が見える。表面の白っぽく見えるリボンのような帯は、高速のジェット気流で、秒速約 150 m の速度で流れている。
Image credit: NASA
 

35年前の1981年8月25日、ボイジャー2号は土星に最接近した。ボイジャーによって驚くべき事実が明らかになり、1年後、米国とヨーロッパの共同ワーキンググループがボイジャーを引き継ぐミッションを議論し始めた。カッシーニと名付けられたそのミッションで、2004年以降土星について研究を続けている。カッシーニはボイジャーの発見をさらに追求し、この「太陽系の縮図」と呼ばれる土星系についての理解を深めている。

「ボイジャーが訪問した他の惑星のように、土星は刺激的な発見や驚きに満ちていた」と、カリフォルニア工科大学ボイジャープロジェクトの科学者、Ed Stoneは語った。 「ボイジャーは土星の前例のない写真をもたらし、そのたびに、もっとよく観察する必要があると分かるのだ。」
 

多くの神秘的な衛星

ボイジャーのフライバイでは、独特の個性と魅力を持つ天体の玉手箱というべき土星の衛星のスリリングな様相を撮影した。ボイジャーの映像によって、衛星はもはや単なる光る点ではなく、実在する世界となった。テティス、ディオネ、レア、イアペトゥスや他の衛星の劇的な様相は各々の歴史を刻み、惑星科学者の興味を引くばかりだ。

「ボイジャーとカッシーニ、両方のミッションで、土星の衛星に我々すべてが驚かされた」NASAのジェット推進研究所のLinda Spilkerは語った。

ボイジャーの土星への訪問での重要な発見の一つは、衛星が過去の地質学的活動の証拠を有していることである。そして最も明るい、最も高い反射率を持つエンケラドスでは、その地質学的活動がまだ続いているかも知れない。
Discovering Enceladus - News & Image Caption - 日本語ニュース参照

これらの衛星の本質の探求のために打ち上げられたカッシーニは、凍ったエンケラドスに今現在も間欠泉があることを発見した。さらに、ボイジャーによって示唆されていた、土星のEリングの源がその間欠泉であることを確認した。
リングに向かう巻きひげ状構造はプリューム噴出から伸びる触手 - 日本語ニュース参照

ボイジャーが撮影したウィスピー(wispy)構造はディオネに氷の火山の存在を示唆し、カッシーニによって、この羽毛状のコーティングが峡谷を明るく見せていることが確認された。
 

注目すべきはタイタン

土星最大の月、タイタンは、ボイジャーミッションでは優先度の高い目標だった。カイパーベルトに名を残すジェラルド・カイパーは、タイタンがメタンを含む大気を持っていることを1944年に発見した。二機のボイジャーの調査によって、タイタンの大気は、主に窒素であり、他は数パーセントのメタンや少量のエタン、プロパン、アセチレンなどの炭化水素から成ることを示した。太陽系内の他の衛星は大気を持たない。
 

タイタンは直径 5150 km の木星の衛星ガニメデに次いで、太陽系で二番目に大きい衛星である。大気の厚さは 200 km と、太陽系のどの衛星のよりも濃密である。主成分は地球と同じく窒素で、その他メタンとアルゴンがある。厚い大気の中には、40億年前の地球の原始大気環境が封じ込められていると考えられている。現在、NASA の土星探査機カッシーニが2004年の到着を目指して飛行中である。1980年08月22日、探査機ボイジャー2号が、450万 km 先から撮影した。
Image credit: NASA/JPL
 

ボイジャー2号は天王星を訪れるため、スイングバイで土星の重力を利用する。しかし、タイタンの大気への強い関心から、巨大な月タイタンは優先度が高かった。ボイジャー1号がタイタンの観察に成功していなかった場合は、ボイジャー2号が向けられたことだろう。

「ボイジャー2号をタイタンに接近させる場合、惑星平面から外れて上方向へスイングする必要があった。こうなると、以降は他の天体を訪問することができない」と、Stoneは語った。「ボイジャー1号によるタイタンの観測が完璧だったことで、ボイジャー2号は天王星と海王星への旅を続けることができた。」

二機のボイジャーから見るタイタンは、その大気中の濃密な霧のため、のっぺりとしたオレンジ色のボールのようだった。この霧の向こうを通して見ることが、後の探査機カッシーニの主たる目標だった。カッシーニには赤外線カメラとタイタン表面をマッピングするためのレーダー、そして、2005年1月14日に極寒の表面に着陸したホイヘンスプローブが搭載された。タイタンにはメタンの湖や峡谷があることが分かった。
 

天体の形状やサイズに新たな知見

ボイジャーは、4つの新しい衛星を発見し、我々の知見は深まった。また、海上の船が航跡を残すように、これら衛星の重力が、土星の環に波紋を起こすことが分かった。リングの隙間のいくつかは、リング内の衛星によって引き起こされたものだ。

ボイジャーは、土星の北極を囲む雲の中に巨大な六角形の構造を発見し、四半世紀後の今もカッシーニによって確認された。さらに、ボイジャーは、土星の大気の風速、温度と密度を測定した。ボイジャーの測定を基に、カッシーニは土星の大気が季節によってどのように変動するかを観測した。
Saturn's Mysterious Hexagon Emerges From Winter Darkness - NASA ニュース参照
 

再び土星探査を行い、さらに深まって行く謎

ボイジャーとカッシーニによって土星、そのリングと衛星の我々の理解は深まったが、まだ多くの謎が残っている。たとえば、土星の一日の正確な長さは、研究者を悩ませている。ボイジャーによって、一日が10.66時間であることが測定されたが、カッシーニは、土星の北と南で異なる結果を得た。
Cassini Offers New Hints on Length of Saturn's Day - NASA ニュース参照

ボイジャーは土星の環の最初の近接からの観察を行い、スポークと呼ばれるぼんやりした特徴を持つ、薄いリングを発見した。しかし、カッシーニによる観測が10年以上続いているにもかかわらず、科学者たちはまだリングの年齢がわからない。リングの年齢は数億、あるいはそれ以上である可能性もある。カッシーニには、海を持つエンケラドスとタイタンに生物が居住することができるかどうかなどの新たな疑問が突き付けられている。

「二機のボイジャーは、土星とそのリングと衛星について教科書を書き直した」と、Spilkerは語った。「カッシーニによって発見された新たな謎は、ボイジャーの足跡をたどるよう、次のミッションを待つだろう。」

宇宙環境を探索し、将来のミッションの保護に貢献するHeliophysics System Observatory (HSO)の一環として、ボイジャー2号のミッションは現在も続いている。ボイジャーは現在、太陽から吹き出す物質が他の星から同様に吹き出したものと遭遇する星間領域の探査を行っている。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office