ハッブル宇宙望遠鏡 : 木星衛星エウロパに水蒸気状のプリューム噴出を確認

NASA のハッブル宇宙望遠鏡を用いて、木星の衛星エウロパの表面から噴出した水蒸気プリュームを撮影した。この発見は、これまでのハッブルによる観測と共に、エウロパが高高度まで水蒸気プリュームを噴出していることを裏付ける。
 

木星の月・エウロパの七時方向に水蒸気のプリュームと思われる像。木星の目を通過するエウロパを NASA のハッブル宇宙望遠鏡の分光器で撮影し合成したもの。
Image credit: ESA/Rosetta/MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA
 

NASA のハッブル宇宙望遠鏡を用いて、木星の衛星エウロパの表面から噴出した水蒸気プリュームを撮影した。この発見は、これまでのハッブルによる観測と共に、エウロパが高高度まで水蒸気プリュームを噴出していることを裏付ける。

また、水蒸気プリュームが高高度であることから、エウロパ表面を深く掘削すること無く、フライバイによってエウロパの海の成分をサンプリングすることが可能になるかも知れない。

「エウロパの海には、生命が存在する可能性あると考えられている」と、ワシントンの NASA の科学ミッション本部の Geoff Yoder は語った。「これら水蒸気プリュームの存在が確かならば、エウロパの地下水のサンプリングに新たな手法が考えられる。」

水蒸気プリュームは、約 200 km の高さまで上昇したのち、エウロパの表面に雨として戻っていると推定される。エウロパには地球の海の二倍の水を持つ巨大な海があるが、それは未知の厚さの非常に低温の硬い氷の層によって覆われている。水蒸気プリュームを利用すれば、地殻や氷を掘削することなく、地下から水のサンプルを収集することが出来るかも知れない。

ボルチモアの宇宙望遠鏡科学研究所の William Sparks が率いるチームによると、木星の前を通過するエウロパは、伸びた水蒸気プリュームがまるで伸ばした手足か指のように見えるとのこと。
 

Hubble Directly Images Possible Plumes on Europa


 

観測の本来の目的は、エウロパが希薄な大気圏、すなわち外気圏を持つかを決定することだった。エウロパから水蒸気プリューム噴出している場合、他の星を周回する惑星の周りの大気層状を検出する観察方法を用いれば、観察は容易であろう。

「太陽系外惑星の大気は、その背後からの光を一部遮る。」と、Sparks は語った。「エウロパに薄い大気があるなら、木星の光の一部を遮断するだろうし、それは陰として見ることができるだろう。エウロパから伸びる水蒸気プリュームの吸光度を、木星からの光を背景として観測できる。」

十五ヶ月間で 10 例、エウロパの木星の通過を観測した。このうち、3 例に水蒸気プリュームを確認した。

これらは、エウロパに水蒸気プリュームが存在する証拠となる。2012年、サンアントニオのサウスウェスト研究所の Lorenz Roth 率いるチームは、水蒸気がエウロパの極寒の南極地域から噴出し、上空 160 km に達することを確認した。Sparks、Roth の両チームはいずれもハッブル宇宙望遠鏡の分光器を使用したが、それぞれ完全に独立した方法を使用しながら同じ結論に到達した。

「彼らとは完全に異なる方法で、これら吸光特性を構成するのに必要とされる物質の量を計算したが、Roth のチームが見つけたものと一致していた」と、Sparks は語った。 「質量の推定値も一致、噴煙の高さの推定値も一致。我々が観察したプリュームのうち二例の高度は、彼らの初期の研究結果と一致する。」

しかしながら、二つのチームが同時に、独自の技術を用いてプリュームを検出してはいない。これまでの観測により、プリュームの発生はまばらで、散発的に噴出し、しかる後停止していることを示唆している。たとえば、Roth のチームが一例を観察した一週間に、Sparks のチームはプリュームを検出しなかった。

確認が進めば、エウロパは水蒸気プリュームを有する第二の太陽系の月となる。 2005年、NASA のカッシーニ探査機は土星の月エンケラドスの表面から噴き出す水蒸気や埃のジェットを検出した。

エウロパから気体や水蒸気が噴出しているのを確認するため、2018年に予定されている NASA のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線カメラを使用することもできる。 NASA はまた、プリュームの存在を確認し、複数の接近飛行中に至近距離からそれらを研究することが出来る装備を持つエウロパ・ミッションを策定している。

「ハッブルの突出した性能により、これらプリュームを確認できた。設計時の想定を超えたパフォーマンスだ。」と、ワシントンの NASA 本部の天体物理学部門のディレクター、Paul Hertz は語った。「この観測は可能性の世界を開いた。将来のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のようなミッションが後を追うことを楽しみにしている。」

Sparks らによる研究は、Astrophysical Journal の9月29日号に掲載される。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office