NASA Psyche 探査計画 : グレン・リサーチセンターでのスラスタ実験


プシケ・メタルワールドミッション

NASA による太陽系深部の探査が進むなか、重要な関心として太陽系における我々地球周辺の近宇宙の現状理解を深めることにある。そのための知見を得るキャンペーンの次の目的地である小惑星プシケ(Psyche)は、小惑星帯(Asteroid Belt)に位置する金属質の稀少な世界である。
 

Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

プシケは、ニッケル鉄が露出すると思われる天体面が観測されており、岩石タイプが多い数百万もの他の小惑星とは異なる組成とみられる。
アリゾナ州立テネフ大学の研究者は、カリフォルニア NASA の JPL(ジェット推進研究所)との共同研究により、小惑星プシケの実態が、惑星形成初期の残存核である可能性があると考えている。我々が住む地球のような「火の玉状」に燃えてその後冷えて固まった天体は、その形成初期を調べることが困難であり、プシケ探査はこの困難を排除する可能性を秘めた天体なのだ。
 

「プシケは非常にユニークな天体だ。それはマサチューセッツ州ほどもある小惑星最大規模の金属小惑星だからだ」
JPL のミッションのプロジェクト・システム・エンジニアである David Oh は語る。
「プシュケを探査することで、地球のような惑星形成、惑星核の形成過程、さらに重要なことは、我々が今まで訪問することが無かった新しいタイプの世界を覗き見ることだ。これまで我々は、岩石、氷、ガスで作られた世界を探究してきたが、金属で出来た天体世界を見るチャンスは一度も無かったんだ。これは古典的である NASA における新々の探査と言えるものだ」

しかし、プシケへのアクセスは言うほど容易ではない。優れた性能を持つ最先端の推進システムが必要だ。これは、安全で信頼性が高く、費用対効果の高いものでなければならない。このことからミッションチームは、数十年間、ソーラー電気推進(SEP)の研究を進めてきたクリーブランドの NASA グレンリサーチセンター(Glenn Research Center, 以下センター)による支援を求めた。

SEP(ソーラー電気推進)スラスタは、キセノンのような不活性ガスを使用し、オンボードソーラーアレイから生成された電力によって励磁(磁化していない強磁性体を磁化すること)され、穏やかで連続稼働が可能な推力を提供する。

「深宇宙ミッション推進のために必要な探査機の燃料の種類と量は、ミッションプランナーにとって重要な要素よ」とセンターの Carol Tolbert 説明する。
「このミッションに使用されているような SEP システムは、従来の化学推進システムよりも効率的に動作するが、このタイプのミッションでは本来は実用的ではなかった」

燃料の量を減らすことで、ミッションはプシケの周回軌道に乗ることができ、求めるミッション機器総てを搭載可能となる。プシケのペイロードとしては、マルチスペクトルイメージャ、磁力計、ガンマ線分光計が含まれている。科学チームはこれらの計測機器によって小惑星の起源・組成・形成史を探る。

SEP の利点としては、飛行計画の柔軟性と堅牢性である、探査機が従来の推進力よりもはるかに迅速かつ効率的にプシケに到着できることなどもある。

JPL と Space Systems Loral(SSL)が共同で製作する探査機は、SPT-140 ホール効果スラスタ(Hall effect thruster)を使用する。プシケは地球~太陽間の三倍ほどの距離にあり、そこでの飛行は、非常に低い圧力でのスラスタコントロールが必要となるため、低出力動作の独自のテストが必要であった。

スラスタコントロールの設定について、ミッションチームはセンターの電気推進研究所による協力を求めた。
 

Preparing our Vacuum Chamber to Test High-Powered Thruster.


 

「このミッションでは、ホール効果スラスタシステムを初めて月軌道を越えて使用することになるので、これまでに実施されていなかったセンターでの試験は、スラスタが深宇宙環境で期待通りに動作するのかを確認する必要があった」と Carol Tolbert は述べる。

NASA の施設である グレンリサーチセンター(Glenn Research Center)は、40年以上にわたり電気推進および電力システムのテストの最先端を築いており、宇宙空間での真空と温度をシミュレートするための多数の宇宙環境ルームを備えている。

「これは(スラスタの深宇宙環境での動作試験)、プシケ・ミッションにとって非常に重要だった。私たちは、実際のフライトに近い環境でのテストを求めていた」と、David Oh は語る。
「センターには世界最高レベルの施設・設備があり、探査機が動作する環境をシミュレートし、非常に低い圧力でのスラスタによるプシケの動作を理解できた」

「結果としては、スラスタの性能に関する予測が確認出来て、すべてが期待どおりに機能しているように見えるが、今後も分析を続けてモデルを改良していく」

チームは2022年08月に予定されている打ち上げに向けて作業を進める中、NASA グレンで収集されたデータを使用してスラスタのモデリングを更新し、ミッション軌道に組み込む予定だ。
 

プシケミッションの科学的目標は、惑星形成の基礎を理解するために、全く新しい未踏の世界を直接探求することにある。ミッションチームは、プシケが太陽系形成初期の惑星の核であったどうか、それの形成年代は?、それが地球の核形成と同様なものなのかどうか、その表面が現在はどのように組成されているのかどうかを判断しようとしている。

NASA プシケ・ミッションの詳細については、以下をご覧いただきたい。

Psyche Asteroid Mission | NASA

上記ウェブのなかでプシケの概要は、” このページ ” にある。

プシケ・ミッションは、NASA ディスカバリー・プログラム(Discovery Program)の下で採択された。ディスカバリー・プログラムは、低コストで効率の良い太陽系惑星探査を目指したものだ。「より速く、より良く、より安く(Faster, Better, Cheaper)」がスローガンとしてよく知られている。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office