カッシーニ探査機 : エンケラドスから泡立つ複雑な有機物


NASA カッシーニ探査機が残したデータは、衛星エンケラドスの海洋世界が生命生存に適した条件を今も有しているという認識を強め、この氷衛星に由来する複雑な有機分子を明らかにしている。最新の研究結果では、これまで確認されたものよりも重く大きい分子を示している。
 

左:土星の衛星エンケラドスの内部。氷の地殻は極地で薄く、その下には海洋がある。多孔性の岩石のコアに浸透する水は、内部の岩石との接触によって湯気のように加熱され温められる。加熱された水は、極の下にある熱水噴出口で海洋に噴き出す。複雑な有機物や岩石粒子は、熱水流によって海洋中に運ばれる。海洋を上昇するガス泡は、その表面上で有機物質を集め、それらを氷の殻に上向きに運ぶ。
中:海洋水テーブルは、南極の氷の地殻の亀裂の内側にあり、ガスの泡は海洋表面に有機物質を持ち込んでいる。その後、海洋上に薄いフィルムのような有機物の薄膜を作る。
右:ガス泡が海洋表面で爆発すると、塩分を含む海水が霧状に噴き出され、有機物の一部が分散する。分散した有機材料の混ざった液滴は表面で凍結し、その際にに氷で覆われる。塩海水は、噴霧されて凍った凍結液滴とともにプルームとして放出され、カッシーニによって検出される。
※ 中と右のインセットは、左のグローバルビューに対して180度回転していることに注意してください。
Image credit: ESA; F. Postberg et al (2018)
 

海底にある強力な熱水噴出口は、有機物を含んだ多孔質コアで温められた物質を海洋に「注入」し、極地方の薄い表面氷の亀裂からプリュームとして水蒸気と氷粒子の形で宇宙空間に放出する。
ドイツのハイデルベルク大学の Frank Postberg と Nozair Khawaja が率いるチームは、プリュームから宇宙空間に排出された氷の構成を調べ続けており、最近は大型で複雑な有機分子の断片が特定されている。

カッシーニ探査機は、これまでにエンケラドスでは比較的小さな規模の小さな有機分子を検出していたが、今回のように数百の原子を含む複雑な分子は、地球外においては稀な存在だ。

大規模で複雑な分子の存在は、液体の水および熱水活動の存在とともに、エンケラドスの海洋が生命にとって居住可能な環境であるという仮説を支持している。

この研究結果は、06月27日付の Nature に掲載されている。

このような大きく複雑な分子は、生命に関するものを含む複雑な化学プロセスによって生成することができ、また、いくつかの隕石中から発見される原始的な物質からも得られる場合がある。

エンケラドスでは、衛星内部の中核で複雑な化学反応を引き起こす水熱活動によって生成される可能性が最も高いと Postberg は指摘する。

有機物質は、エンケラドスの海底にある熱水噴出口によって海洋に注入されている。このことは、地球上の海底に見られる熱水サイトによく似ている。これは、地球において科学者が生命の出現を調査する可能性のある環境の一つと同じだ。

エンケラドスでは、海底から海上に向かって数マイルに及ぶ上昇中に、多孔質コアで温まったガスの泡が有機物を取り込み、それが海面に浮かぶ薄いフィルム状となったあと、プリュームに乗じて放出されており、そこをカッシーニによって捕獲されるというわけだ。

プロジェクト・サイエンティストの Linda Spilker(リンダ・スピルカー)は、「カッシーニのデータを継続的に研究することによって、この海洋世界の謎の解明が進むでしょう」と語った。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office