Dawn ミッション:最終低軌道ミッションで明らかになった新たな知見 - イオン推進が停止するその日までに


矮惑星ケレスについて、今後の見通しも含めたパサデナ会議 COSPAR

NASA Dawn プロジェクトは、ケレスでの二回の追加ミッションを含めた画期的な11年間の探査ミッションの終焉を間近に控えるなか、探査機による画像やその他のデータ収集が続いている。
 

Imahe caption :
Dawn 探査機によって撮られたオッカトル・クレータの Cerealia Facula 領域。約 21 マイル(34 キロメートル)の低高度軌道からのもの。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA/PSI
 

数ヶ月のうちに、Dawn は重要な燃料であるヒドラジンを使い果たすことが予想されている。ヒドラジンは、探査機の姿勢・方向を制御し、地球との通信姿勢を維持するためのスラスタの稼働を維持する。この燃料が渇すると、およそ08月から10月の間にほとんどの動作を停止するが、探査機は矮星の周りの軌道上に留まる。

Dawn は、ディープスペースにある二か所の目的地を周回してきた、いわゆるマルチランデブーを行った世界で唯一の探査機だ。
火星と木星の間にあるアステロイドベルト(小惑星帯)最大の天体であるケレスとベスタから、私たちに新たな視点・知見を与えた。2011年から2012年に掛けて、Dawn はチームがデザインした軌道の通り、ベスタランデブーミッションを完成させた。ベスタ周回軌道離脱後、二年間以上の時をメインベルト軌道の周回に費やして2015年、矮惑星ケレスに到達したのだ。

ケレスに到着した Dawn 探査機は、眼前に広がる塩分に富んだ鮮やかに輝く鉱床を目にした。これら高輝度エリアと呼ばれる鉱床の裏に隠されていたサイエンスは、結果的にはとても魅力的なものだった。この鉱床は、主に炭酸ナトリウムと塩化アンモニウムであり、地殻の内側または下方からの粘り気のある塩水として、何らかの形で表面に達していた。

これらの発見は、驚異的な効率を誇るイオン推進によってさらなる解明が進んだ。Dawn は、SF ファンや宇宙愛好家には馴染み深いイオン推進を使用する最初の宇宙機ではなかったが、先進的で推進力とスタミナの限界向上によってミッションを拡張へと導いたのだ。

NASA ジェット推進研究所の、Dawn プロジェクトマネージャであるマーク・レイマン(Marc Rayman)は語る。「搭載した規模のイオン推進が無ければ Dawn の成果は訪れなかっただろう」
「Dawn は、真の深宇宙惑星間航行探査機であり、神秘的で魅惑的な太陽系初期構造を現有するこれら小天体世界を地球に披露したことは、生産性が非常に高いという側面も併せ持つ」

Dawn による、二度目の拡張ミッションである現在のケレス探査から届く最新データは、毎週のように私たちを驚かせる。私たちが利用する旅客機の三倍程度の高度である、21 マイル(約 34 km)の軌道高度から捉えたケレスの近接撮像が届くからだ。
 

だが待て!これから直ぐに、より多くの新たな科学が地球に届くから

Dawn のミッションは、ほとんど終了しているが、サイエンスはこれからも続く。80年代のボイジャー、90年代のガリレオがそうであったように。
高解像度画像のほかに、探査機はガンマ線と中性子スペクトル、赤外線と可視スペクトル、重力データを収集している。最終のこの観測は、ケレスの形成過程や、今もなお動的であるとみられる地質構造の解明のため、Occator(オッカトル)と Urvara(ウルバラ)の両クレータ周辺に焦点を当てている。
 

Imahe caption :
Dawn 探査機によって撮られた Vinalia Faculae(反射率の比較的低いクレータの群)領域。これも約 21 マイル(34 キロメートル)の低高度軌道からのもの。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA/PSI
 

「オッカトル・クレータとその周辺を捉えた新しい画像は、期待と予測をはるかに超えており、美しい真の宇宙風景を明らかにしている」と、Dawn ミッションの PI キャロル・レイモンド(Carol Raymond)は述べている。
「ケレスのユニークな表面は、揮発性の高い地殻からの影響によって形作られているように見える。Cerealia Facula(クレータの中央の明るい領域)と Vinalia Faculae(反射率の比較的低いクレータの群)の新しい高解像度偽色画像で見られるように、興味深い複雑な地質学を私たちに与えてくれている」

06月上旬に開始されたこの最終ミッションにおける初期見解は、今週パサデナで開催されたCommittee on SPAce Research (COSPAR ※) で発表されている。
 

PM のレイモンドと JPL 科学者、ジェニファー・スカリー(Jennifer Scully)の発表では、衝突プロセス、地すべり、極低温運動を示すオッカトル・クレータの明るい鉱床と暗い物質の関係に関する新しい情報を提供している。

Dawnの科学チームは、Dawn から送られた新たな高解像度画像データを分析して、オッカトル・クレータの形成と進化についての仮説を立て、改訂を続けている。
「これらの観察、モデル化、実験研究の結果からは、高輝度エリアが地殻との相互作用によって形成されるのか、塩水湖が形成に寄与したかのどちらかを示している」とスカリーは語った。
 

これまでに得た新たな画像は、上述の地域の地下物質の曝露が進行中であり、地質学的に活発で深い塩分に富んだ貯水池からの供給であるという仮説を支持している。 Dawn 可視および赤外線マッピング分光器の副主任であるイタリア宇宙機関の Eleonora Ammannito は、ケレスの表面に鮮やかな物質の分布を示す最新の地図を会議で発表する予定だ。

(COSPAR は既に閉会しているので、遅くない時期にウェブで見られると思う。出ているが、筆者が見つけられていない可能性もある。取りあえず、昨年末にチームから提供された高輝度スポットの分布図を以下に示しておく)
 

Imahe caption :
矮惑星ケレスの高輝度スポットの分布を表した図。ケレスにはこうした明るい地域が300以上もある。火口 - 赤色、クレーターの縁や壁 - 緑色、クレーターの噴出物 - 青色、Ahuna Mons - 黄(真ん中から左寄りにある一か所)。
解像度の高めの画像(960 x 475 px, 249 kb)は ” こちら ” に置いた。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA/PSI/Caltech
 

また、COSPAR では、JPL Dawn フライトチームメンバーである Dan Grebow が、NASA の惑星保護プロトコルを遵守するように設計された Dawn の最終軌道についても説明する。
 

あとがき

以上、COSPAR 関連の内容であるが、この和訳記事を掲載した時点では既に閉幕している。COSPAR ホームウェブ等で、さらなる詳細が得られると思うので、ぜひ興味を持って頂ければと思う。
この Dawn ミッション(特にケレス探査)を日本語化することの意味としては、カッシーニやボイジャーとは一線を画す、地球あるいは太陽系の形成初期段階に直接触れることの出来るミッションのひとつであるから。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO. TPSJ Editorial Office