ボイジャー探査機 : ボイジャー 2 が太陽圏-星間空間の境界を知らしめる


1 年余り前の2018年11月05日、NASA ボイジャー 2 は、太陽圏内で生成された粒子と磁場の保護バブルから脱出した歴史上二番目の宇宙機となった。冥王星軌道をはるかに超えた、地球より約 110 億マイル(180 億キロメートル)の距離に到達したボイジャー 2 は、星間空間(星と星の間の領域)に突き進んだ。
今回発表された Nature Astronomy 誌掲載の五編からなる新しい研究論文は、ボイジャー 2 の歴史的なヘリオポーズ通過のタイムラインおよび連続したそれ以降の時間経過において科学者が観察したことを論じている。
 

このアーティストコンセプトは、NASA ボイジャー探査機が星間空間に入ることを示している。この地域は、過去に起こった巨大な星の死によって放出されるプラズマによって支配されている。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

各論文では、ボイジャー 2 の 5 機(磁場センサー、異なるエネルギー範囲のエネルギー粒子を検出するふたつの機器、およびプラズマ(荷電粒子で構成される星間ガス。以下、この記事ではプラズマと称する)を研究するふたつの機器)の搭載科学機器のひとつからの発見について詳説している。論文では、今回の観測結果により、太陽圏境界付近の磁場・プラズマ変化が見て取れるとしている。我々の太陽によって作られた環境はここで終わり、その先には星間空間への航海が待ち受けている。

太陽系太陽圏は、星間空間を航行する保護船団のようなものだ。太陽圏と星間空間の両方はプラズマで満たされている。プラズマは、原子の一部から電子が電離した状態のガスであり、太陽圏内のプラズマは高温でまばらだが、星間空間のプラズマはより低温でより高密度となっている。星間空間には宇宙線、または星の爆発などによって加速された粒子のも含まれている。ボイジャー 1 は、太陽圏が外から向かってくるその放射の 70 % 以上を遮断し、地球や他の惑星を保護していることを知らしめた。
 

このアーティストコンセプトは、NASA ボイジャー 1 およびボイジャー 2 の、太陽によって作られた粒子と磁場によって保護された太陽圏(ヘリオスフィア)を示している。 両方のボイジャーは現在、太陽圏の外、星間空間領域にいる。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

昨年(2018年)ボイジャー 2 が太陽圏を脱出したとき、科学者たちは搭載されたふたつのエネルギー粒子検出器が劇的な変化を感知したと発表した。脱出後に検出された太陽起源の粒子の割合は急落し、星間媒体である宇宙線の割合(元々は太陽圏粒子よりもエネルギー量は多い)が増加して高止まったままであった。この状況変化の感知により、宇宙機が新しい星間空間領域に入ったことを確認した。

2012年にボイジャー 1 が太陽圏の端であるヘリオポーズに到達するまで、科学者はこの境界が太陽からどれだけ離れているかを正確に知らなかった。二機の探査機による太陽圏脱出は、約11年ほどで太陽活動が変化するなか、脱出時間・位置が異なるものであった。

科学者たちは、太陽の活動の変化に応じて太陽圏の端であるヘリオポーズが脈動し、呼吸のように肺が膨張および収縮するようなものであろうと予想していた。これは、二機の宇宙機が太陽から異なる距離でヘリオポーズに遭遇したという事実と一致していた。

現在の新しい論文によると、ボイジャー 2 は太陽の影響を受けない星間空間に達していないことを確認している。双子のボイジャー 1 と同様に、ボイジャー 2 は太陽圏のすぐ外の摂動遷移領域(太陽圏は脱しているが、太陽からの摂動影響が大きい太陽圏・星間空間の混沌とした領域の意)にあるようだ。

「ボイジャーたちは、我々の太陽および太陽圏(系)が、天の川銀河の星間空間ほとんどを埋める星間媒体と、どのように相互作用するかを示している」と、ボイジャーのプロジェクト科学者であり、カリフォルニア工科大学の物理学教授である Ed Stone(エド・ストーン)は述べている。
「ボイジャー 2 からのこの新しいデータがなければ、ボイジャー 1 で見たものが太陽圏全体の特性なのか、それが通過した場所と時間だけの特性なのかを知ることはできなかった」

Pushing Through Plasma(プラズマ圧縮)

二機のボイジャー探査機は、科学者が予想したように、現在、局所的な星間空間のプラズマが太陽圏内のプラズマよりもかなり高密度であることを確認している。ボイジャー 2 は、目前の星間空間のプラズマの温度も測定し、太陽圏内のプラズマよりも低温であることを確認した。

2012年、ボイジャー 1 は、太陽圏のすぐ外側で予想よりわずかに高いプラズマ密度を観測し、プラズマがいくらか圧縮されていることを示した。ボイジャー 2 は、太陽圏外のプラズマが予想よりわずかに暖かいことを観測した。これは、圧縮されていることからくるものと推測できる(それでも外側のプラズマは内側のプラズマよりも確実に低温である)。ボイジャー 2 は、プラズマが太陽圏から出る直前にわずかなプラズマ密度の増加も感知し、このことはプラズマがヘリオスフィアの内側の端部でも圧縮されていることを示唆する。科学者は、圧縮の原因が何なのかをまだ完全には理解できていない。

Leaking Particles(粒子漏れ)

太陽圏が星間空間を航行する船とすれば、この船体は、やや漏れやすいように思える。 ボイジャーの粒子測定器のひとつによって、太陽圏内部からの細流の粒子が境界を通って星間空間に滑り込むことを観測された。ボイジャー 1 のこうした様々な観測は、太陽圏を出た直後の、まさに「太陽圏前部」辺りで終えた。一方、ボイジャー 2 は 1 から見て側面に近い位置にあり、この領域はボイジャー 1 が位置する領域よりも多孔性が高く見える。結果、粒子漏れが多くなる。

Magnetic Field Mystery(磁場の謎)

ボイジャー 2 の磁場測定器による観測は、ボイジャー 1 から得ていた驚くべき結果を裏付けている。太陽圏界面ヘリオポーズのすぐ外の領域の磁場は、太陽圏内の磁場と平行であった(当時、観測チームは、これを磁気ハイウェイと呼んだ)。ボイジャー 1 では、科学者はこれらの磁場のサンプルをひとつしか与えられておらず、一見の配列が外部領域全体の特徴であるのか、または単なる偶然の一致であるのか確信を持つことはできなかった。Ed Stone によると、ボイジャー 2 搭載の磁力計による観測によって、ボイジャー 1 の観測同様、両側の磁場が平行に揃っていることを示されたことにより全体像が見えてくるようだ。
 

ボイジャーの詳細は以下からご覧頂きたい。

https://voyager.jpl.nasa.gov/
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office