NASA OSIRIS-REx 探査機:小惑星ベンヌ(ベヌー)の将来軌道が明らかに!


NASA OSIRIS-REx 探査機は、小惑星 Bennu(ベンヌ、ベヌー)表面からのサンプリングと併せて、太陽を周回する地球近傍天体であるベンヌの軌道詳細の確度を上げるための正確なデータを提供した。
 

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Credit : NASA
 

本日、08月11日に発表された研究成果では、NASA の研究者は、太陽周回に至る起源、スペクトル解析、カタログ化された形成物質、OSIRIS-REx 探査機搭載機器による精密な追跡データを駆使し、2300年までの「潜在的に危険な小惑星(PHA)」であるベンヌの軌道詳細を弾き出した。これにより、小惑星の今後の軌道に関連する不確実性を減らして地球へのインパクト確率を決定し、さらに他の小惑星の軌道を予測するための科学者の能力を向上させることになる。

「OSIRIS-REx データに基づく地球近傍小惑星(101955)ベンヌの軌道情報と(衝突)危険性評価」というタイトルの研究論文が「Icarus」誌に掲載された。

「NASA における天体の地球衝突防衛ミッションは、地球に極めて接近する可能性があり、地球への衝突危機をもたらす可能性のある小惑星や彗星を発見して監視することにある」と、ワシントン NASA 本部の地球近傍天体観測プログラムのプログラムマネージャーである Kelly Fast(ケリー・ファスト)は述べている。
「我々は、これまで知られていなかった天体を見つけ、それらの軌道モデル精度の向上のためにデータを収集する継続的な天文観測を通じて、この努力を続けている。OSIRIS-REx ミッションは、これらのモデルの精度向上および実験のための優位なチャンスをもたらし、ベンヌが一世紀以上のちに地球に接近した際の位置情報の精度向上に貢献した」
 

2135年に小惑星ベンヌは、地球に極めて接近する。これまでの軌道予測シミュレーションでのベンヌは、その際に我々の惑星に危険をもたらすことはないと考えられているが、科学者にとっては、地球の重力が太陽を周回する小惑星の軌道をどのように変えるかを予測し、地球へのインパクト危機に影響を与えるのか、地球接近に際したベンヌの正確な軌道を解明する必要がある。
 

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このムービーは、OSIRIS-REx データを使用して、太陽を周回する小惑星ベンヌの軌道決定の方法を説明し、2135年に接近したときに、地球の重力が小惑星の軌道にどのように影響するかを示したもの。
Credit : NASA's Goddard Space Flight Center
 

NASA DSN(ディープスペースネットワーク)と最先端のコンピューターモデルを使用して、研究者はベンヌ軌道の不確実性を大幅に縮小することができた。2300年に到るまでの総ての接近によるインパクト確率は 1,750 分の 1(0.057 %)であると判断した。研究者たちはまた、2182年09月24日を、(潜在的な影響の観点から)最も重要な単一の日付として特定することができ、その接近による影響確率は 2,700 分の 1(約0.037%)であった。

地球に衝突する可能性としては非常に低いものだが、ベンヌは 1950 DA と呼ばれるもうひとつの小惑星とともに、地球にとって最も危険な小惑星であることに変わりはない。
 

2021年05月10日のベンヌ離脱までの間、OSIRIS-REx は二年以上小惑星周辺でランデブーし、自転軸と太陽周回軌道要素を監視しながら、幅およそ 500 メートルのボディの形状、質量、組成などの観測データを取得し続けた。さらに探査機は、ベンヌの表面から岩や塵のサンプルをすくい上げ、科学的な調査のために2023年09月24日に地球にそれを届ける。

「OSIRIS-REx からのデータは、非常に正確な情報を我々に与えてくれる。確実なモデル構築により、2135年までのベンヌの将来の確度の非常に高い軌道を計算することができる」と、JPL 地球近傍天体研究(CNEOS)センターの研究リーダーである Davide Farnocchia(ダビデ・ファルノッキア)は述べている。
「ここまでの高い精度の小惑星軌道をモデル化したことは、これまでにない」
 

重力の鍵穴

ベンヌから得た様々な正確な測定データは、小惑星の軌道が時間の経過とともにどのように進化するか、そして小惑星が2135年の接近の際、「重力の鍵穴」を通過するかどうかをより正確に判断するのに役立つ。鍵穴とは、地球の重力の影響により、小惑星が特定の時間に通過した場合に、ベンヌが地球との将来の重力影響に向かう可能性を測る空間内の領域のことを例えている。

小惑星が2135年の接近中にどこに位置するか、そして小惑星が「重力の鍵穴」を通過するかどうかを正確に計算するためにファルノッキアと彼のチームは、小惑星の太陽周回において小惑星に影響を与える可能性のある様々な種類の小さな力を評価した。微小な力でさえ、時間の経過とともに軌道経路を大幅に偏向させ、「重力の鍵穴」を通過したり、あるいは完全に外れたりする可能性が考えられる。

それらの微小な力の中で、太陽から与えられる熱は非常に重要な役割を果たす。小惑星が太陽の周りを移動しているさなか、天体表面の昼間は日光によって温められる。小惑星は自転しているため、加熱された表面は回転し、夜側に入ると冷却される。その際、天体表面からは赤外線エネルギーが放出され、天体に少量の推力が発生することになる。これはヤルコフスキー効果と呼ばれる現象であり、短いタイムフレームでは、この推力はごくわずかだが、長い期間を続けると、小惑星軌道への影響が増大し、小惑星の経路を変えてしまう重要な影響を与える可能性がある。

「ヤルコフスキー効果は、太陽系内すべての小惑星に作用する。OSIRIS-REx は、ベンヌの太陽周回において、それを詳細に測定する初めてのチャンスをくれたんだ」と JPL の上級研究科学者で研究共同研究者の Steve Chesley(スティーブ・チェスリー )は述べている。
「ベンヌへ絶えず作用する影響は、三つのブドウの重さ程度に相当する。小さいが、今後数十年から数世紀にわたるベンヌの将来軌道への影響の可能性を決定する際にはとても重要だ」

チームは、太陽、惑星、衛星および 300 を超える他の小惑星による重力、さらに惑星間塵によって引き起こされる抗力、太陽風の圧力、ベンヌの粒子放出イベントなど、他の多くの摂動力も考慮した。研究者たちは、2020年10月20日にタッチアンドゴー(TAG)サンプリングを実行するときに OSIRIS-REx がベンヌに及ぼす力について、ベンヌの軌道をわずかでも変更した可能性があるかどうかを確認し、最終的にタッチアンドゴー以前の軌道に変化がないことを確認した。無視できる影響だった。

NASA ゴダードスペースフライトセンターの OSIRIS-REx プロジェクトマネージャーである Rich Burns(リッチ・バーンズ)は、次のように述べている。
「タッチアンドゴーによって、ベンヌが地球に影響を与える可能性を無くすことはなかった」
 

小さなリスク、大きな利益

2300年までの 0.057 % の影響確率と 2182年09月24日の 0.037 % という影響確率は低いものだが、この研究は、小惑星ベンヌの軌道を正確に特徴づける上で OSIRIS-REx 探査機が果たした重要な役割を強調している。

「OSIRIS-REx による、このミッションの軌道データは、今後数世紀にわたるベンヌの地球への影響の可能性と、潜在的に危険な小惑星(PHA)ほとんどについての理解を高めることに役立った。信じられないほどの結果となった」と、アリゾナ大学の OSIRIS-REx 主任研究員兼教授である Dante Lauretta(ダンテ・ローレッタ)は述べている 。
「探査機は現在、この魅力的な古代の物体からの貴重なサンプルを抱えて帰宅途中だ。これは太陽系の歴史だけでなく、熱によってベンヌの軌道を変更する太陽光の役割の理解向上に役立つ。地球上の実験室ではやれないものだ」
 

Goddard は、OSIRIS-REx の全体的なミッション管理、システムエンジニアリング、および安全性とミッションの保証を提供する。アリゾナ大学ツーソン校の Dante Lauretta(ダンテ・ローレッタ)が主任研究員である。大学は、科学チームとミッションの科学観測計画およびデータ処理を主導している。コロラド州リトルトンにあるロッキードマーティンスペースは、宇宙船を製造し、飛行操作を担う。Goddard と KinetX Aerospace は、OSIRIS-REx 探査機のナビゲートを担当している。OSIRIS-REx は、NASA ニューフロンティア計画の三番目のミッションであり、アラバマ州ハンツビルにある NASA マーシャル宇宙飛行センターによって管理されている。

OSIRIS-REx の詳細については、以下のWebサイトをご覧いただきたい。

OSIRIS-REx | NASA
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office