NASA Psyche 探査計画「太陽電池による電気推進で NASA Psyche 探査機を走らせる」


Editor's Note :
Psyche 探査機が最終的に移動する速度と、Psyche が使用するキセノンの量に対して従来の化学スラスタが必要とする推進剤の量に訂正があった。
 

Imahe caption :
2021年03月に更新された、NASA Psyche 探査機を描いたイラスト。2022年08月に打ち上げられる Psyche 探査機は、火星と木星の間の主要小惑星帯に位置する同名の金属を多く含む小惑星プシケを探査する。探査機は2026年初頭に到着し、約二年の間、小惑星を周回してその組成を調べる。
Credit : NASA/JPL-Caltech/ASU
 

クールなブルーの光を放つ未来的な電気推進スラスタが、深宇宙にある金属の豊富な小惑星へと Psyche 探査機を導いていく ...


NASA Psyche 探査機が深宇宙で自らの能力を発揮する場合、それは腕力よりも頭脳に頼るものとなるだろう。かつては SF の世界の話だったが、電気推進の効率的で静かなパワーが、火星と木星の間にある主要な小惑星帯までの Psyche 探査機による惑星間航行を推進する原動力となる。探査機の目標天体は、「プシケ(16 Psyche)」と呼ばれる金属を多く含む小惑星だ。
 

Psyche 探査機は2022年08月に打ち上げられ、3年半かけて約 15 億マイル(約 24 億キロ)を航行して小惑星に到達する。この小惑星は、初期の岩石質惑星の構成要素である Planetesimal(微惑星)のコアの一部である可能性があると考えられている。ランデブー軌道に乗った後、ミッションチームは搭載された科学機器を用いて探索する。このユニークなターゲットが地球のような岩石質惑星の形成について何を教えてくれるのか、非常に興味深いミッションとなるだろう。
 

この探査機は、「ファルコン・ヘビー(スペース X 社製ファルコン 9 の後継ロケット)」によって飛び立ち、地球の重力圏から脱する。しかし、Psyche 探査機がロケットから分離した後の残りの旅程は、太陽光発電による推進力に頼ることになる。この推進方法では、まず大型の太陽電池アレイで太陽光を電気に変換し、スラスタの動力源としている。これは「ホールスラスタ」と呼ばれ、月の軌道を越えて使用されるのは Psyche 探査機が初めてとなる。
 

Imahe caption :
左は、Psyche 探査機が小惑星帯に向かう際に使用するものと同じ電気式ホール・スラスタで、キセノン・プラズマが青く発光している。右は同様のスラスタ(非動作時)。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

その推進力はとても穏やかで、25セント硬貨を手に持ったときの圧力と同じくらいだ。しかし、その圧力は探査機を深宇宙へと加速させるには十分である。大気の抵抗を受けないため、最終的には地球に対して時速 12 万 4,000 マイル(時速 20 万キロ)まで加速される。
 

穏やかなマヌーバ

Psyche 探査機は、NASA ケネディ宇宙センターの Pad 39A から打ち上げられる。ファルコン・ヘビー」は、7ヵ月後の2023年05月に火星フライバイによって重力アシストを受けるための軌道に探査機を乗せる。その後、2026年初頭の小惑星プシケランデブーに向けた軌道に乗せるため、繊細なスラスタ操作を行う。

望遠鏡で見ると小さな光の点にしか見えないこの小惑星プシケについて、科学者たちはほとんど何も知らないため、この作業は相当に厄介なものになるだろう。地上のレーダー観測から、小惑星プシケの幅は約 140 マイル(226 キロ)で、ジャガイモのような形をしていることが判っている。このミッションでは、21 ヵ月間にわたって科学調査を行うと同時に、航行エンジニアが電気推進スラスタを使用して、探査機をプシケに徐々に近づけていく軌道を繰り返す。

このミッションを管理する南カリフォルニア・パサデナにある NASA ジェット推進研究所(JPL)は、1998年に打ち上げられた「Deep Space 1」で同様の推進システムを使用し、2001年にミッションが終了するまで小惑星と彗星をランデブーした。次に打ち上げられた「Dawn(ドーン)」は、太陽電気の推進力を利用して、小惑星ベスタと原始(矮)惑星ケレスの周回探査を行った。地球外の二つのターゲット天体を周回した史上初の探査機であるこのドーン・ミッションは11年に及び、2018年に姿勢維持のために残量僅かなヒドラジン推進剤を使い切って終了した。
 

推進力のパートナー

Maxar Technologies 社は何十年もの間、商業通信衛星の動力源として太陽電気推進装置を使用してきた。しかし、Psyche Mission では、超高効率のホールスラスタを深宇宙での飛行に適応させる必要があり、JPL のエンジニアの出番となった。Psyche 探査機が初めて月軌道を超えてホールスラスタを使用することで、太陽電気推進の限界を押し広げることができると双方のチームともに期待している。

Maxar 社の Psyche プログラムマネージャーである Steven Scott(スティーブン・スコット)は、「太陽電気推進技術は、コスト削減、効率性、パワーを適切に組み合わせたものであり、火星をはじめとする将来の科学ミッションを支援する上で重要な役割を果たす可能性がある」と述べている。

カリフォルニア州パロアルトにある Maxar 社のチームは、スラスタの供給に加えて、電気システム、推進システム、熱システム、誘導・ナビゲーションシステムを搭載したバンサイズのシャーシの製造も担当した。完全に組み立てられた Psyche 探査機は、JPL の巨大な熱真空室に移動し、深宇宙の環境をシミュレートするテストを行う。来年の春までには JPL からケープカナベラルに輸送され、打ち上げを迎える予定だ。
 

ミッションの詳細

ASU(アリゾナ州立大学:Arizona State University)がミッションを主導する。JPL は、ミッションの全体的な管理、システムエンジニアリング、統合およびテスト、ミッション運用を担当している。Psyche Mission は、NASA ディスカバリープログラムにより選ばれた 14 番目のミッションである。

NASA Psyche Mission についての詳細は以下をご覧頂きたい。

Psyche Asteroid Mission | NASA

Psyche Mission | A Mission to a Metal World(ASU)
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office