小惑星プシケを探査する宇宙機が最終組み立フェーズに入る


来年2022年に打ち上がる予定の Psyche Mission は、火星と木星の間にある小惑星メインベルトにある金属質天体とみられる小惑星 16 Psyche(プシケ)を探査する。

NASA Psyche 宇宙機の主要コンポーネントは、南カリフォルニアの NASA JPL(ジェット推進研究所)に納入された。ここでは、組み立て、テスト、打ち上げ操作段階のフェーズが現在進行中だ。来年には宇宙機の組み立てを完了し、厳密なチェックアウトとテストを受けたのちにフロリダ州ケープカナベラルに移送され、2022年08月に小惑星メインベルトに向けて打ち上げられる。
 

Image Caption : 2021年03月下旬、NASA Psyche 宇宙機の主要コンポーネントが JPL に納入され、組み立て、打ち上げまでのテストが行われている。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

Image Caption : エンジニアと技術者が、輸送コンテナから JPL の宇宙船組立施設内の台車に移動する準備をしているところ。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

カリフォルニア州パロ・アルト(Palo Alto)にある Maxar(Maxar Technologies)のチームによって製作された太陽電気推進(Solar Electric Propulsion : SEP)シャーシは、およそバンのサイズであり、これのみで Psyche 宇宙機を構成するハードウェアの80%以上(質量)となる。大きな箱型の構造物は、JPL が誇る宇宙機組立施設であるハイベイ 1(High Bay 1)と呼ばれる白い壁のクリーンルーム内へ搬入された。シャーシを見渡して目立つものとしては、幅 6.5 フィート(幅 2 メートル)の高ゲインアンテナ、科学機器を保持するフレーム、繊細なハードウェアを保護するための真っ赤な保護カバーなどがある。

「この大きな宇宙機のシャーシが、Maxar から JPL に到着するのを見るのは、これまで 10 年掛けて体験した旅 のマイルストーンの中で、最もスリリングなもののひとつだ」と、ASU アリゾナ州立大学のリンディ・エルキンズ-タントン(Lindy Elkins-Tanton)Psyche Mission 主任研究員は述べている。
「COVID の年の間にこの複雑で精密なエンジニアリングを構築していくことは、人間の決意と卓越性の絶対的な勝利だ」

※ Lindy Elkins-Tanton が言う 10 年の旅とは、計画の草案を経て2015年のディスカバリー計画一次採択、二年後の最終採択、そしていよいよ間近に控えたミッションの発進を思い出してのことだと思う。同様に筆者もそれに近い年数を掛けて彼らの取り組みに注目してきた。
 

Psyche 宇宙機のターゲットは、火星-木星間の小惑星メインベルト内で太陽を周回する、同じ名前の金属が豊富な小惑星だ。科学者たちは、小惑星プシケは主に鉄とニッケルで構成され、初期形成期の惑星の中核(コア)である可能性があると考えている。小惑星プシケ(幅約 140 マイル(幅 226 キロメートル))を探査することで、地球や他の惑星がどのように形成されたかについての貴重な洞察を得ることができる。

今後 12 カ月の間、プロジェクトチームは、打ち上げまでの準備期間の締め切りに間に合わせるために、24 時間体制で取り組んでいくことになる。

JPL Psyche Mission プロジェクトマネージャーである Henry Stone(ヘンリー・ストーン)は、次のように述べている。
「これからは本当に激しいフェーズとなる。これは複雑な工程であり、ひとつのアクティビティで問題が発生した場合、プロセス全体に影響を与える可能性が出てくる。ミッションのこのフェーズでスケジュールを守ることは、間違いなく絶対に重要なこと」
 

SEP(太陽電気推進)シャーシは、ほとんどのエンジニアリングハードウェアシステムがすでに統合された状態で JPL に持ち込まれている。Maxar チーム(シャーシ製作)は、構造全体の構築を行い、高出力電気システム、推進システム、熱システム、およびガイダンスとナビゲーションシステムに必要なハードウェアを統合した。Psyche Mission は、Maxar の超効率的な電気推進システムを使用して、Psyche 宇宙機を深宇宙に送り出す。Maxar は、宇宙機システムに電力を供給する 5 枚のパネルで構成される大型のふたつのソーラーアレイも提供する。

「SEP シャーシを JPL に提供するのは、Maxar Technologies にとって素晴らしい成果だ」と、Maxar プシュケプログラムマネージャーであるスティーブン・スコット(Steven Scott)は述べている。
「自分たちのチームをとても誇りに思っている。我々は、世界的な感染症大流行のなかでチームの健康と安全を優先しながら、低電力環境で 10 億マイルの旅をするための Psyche 宇宙機の SEP を設計・製造することに成功した。Maxar、アリゾナ州立大学、NASA JPL のコラボレーションは成功のモデルとも言え、Psyche Mission に参加していることを光栄に思う」
 

Building and Testing(宇宙機の構築と試験)

先日の03月16日、エンジニア達がハイベイ 1(High Bay 1 : クリーンルーム)に集まり、JPL が提供するサブシステム、フライトコンピューター、通信システム、および低電力配電システムのチェックから始まる、「組み立て、テスト、および打ち上げの運用フェーズ(The assembly, test, and launch operations phase)」が開始された。シャーシが到着したことを受け、JPL と Maxar のエンジニアは残っていたハードウェアのインストールを開始し、テストを進めていく。

ミッションの三つの主要科学機器は、今後数か月で JPL に到着する。磁力計は小惑星の潜在的な磁場を調べる。マルチスペクトルイメージャは、その表面の画像をキャプチャする。そして分光計は、小惑星を構成する元素を決定するために表面からの中性子とガンマ線を分析する。JPL は、将来の NASA ミッションで使用できる高データレートのレーザー通信をテストする技術デモンストレーション機器も提供している。
 

Image Caption : 今後、Psyche 宇宙機のシャーシは回転固定具に取り付けられ、三つの科学機器が据え付けられる。組み立て完了後は、2022年08月の打ち上げに向けてフロリダ州ケープカナベラルに搬送される。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

組み立てが完了したオービター(宇宙機)は、アセンブリー施設から JPL にある大きな熱真空チャンバー(thermal vacuum chamber)に移動する。宇宙機にとって大規模実験となるもので、深宇宙の過酷な環境をシミュレートする。このチャンバーは、JPL エンジニアによって過酷な環境を宇宙機に与えることでマシン全体が深宇宙に耐え得る、電気推進システムで推力を得る、科学測定を行う、地球との通信チェックを確認するなど、重要な最終試験場となっている。

来年の春までに、完全に組み立てられた Psyche 宇宙機は、2022年08月に予定された打ち上げ日までに NASA ケネディ宇宙センターに送り出される。宇宙機は、2023年05月に火星フライバイによって重力アシスト得て2026年初頭には金属小惑星プシケに到達する。その後ランデブーしつつ 21 か月かけて科学データを収集する予定だ。
 

ミッションについて

Psyche Mission は ASU アリゾナ州立大学が主導する。JPL は、ミッションの全体的な管理、システムエンジニアリング、統合とテスト、およびミッションの運用を担当する。Psyche Mission は、NASA ディスカバリー計画の一環として選ばれた 14 番目のミッションとなる。

ミッションの詳細については、以下からご覧いただきたい。

Psyche Asteroid Mission | NASA

Psyche Mission | A Mission to a Metal World (ASU)

ツイッターでの公式情報発信は、Mission To Psyche(@MissionToPsyche)というアカウント名で行っている。TPSJ とは相互にフォローし、惑星探査啓発に努めている。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office