The Planetary Society of Japan

Space Topics 2018

NASA ニューフロンティア計画
「CG 彗星サンプルリターンミッションと土星衛星タイタン・プローブミッションが最終候補に」

Updated : January 18, 2018
December 21, 2017 NASA Press Release 原文 : ” NASA Invests in Concept Development for Missions to Comet, Saturn Moon Titan ”

関連する日本語ニュース :
” ロゼッタの降下着陸ミッションで捉えた最後の撮像 ”
” カッシーニ探査機「長期ミッションを可能にしたタイタンの存在」 ”
” カッシーニ探査機「タイタンの分厚い大気に驚愕の分子構造」 ”
” 2005年、再び訪れたタイタンへの歴史的なランディング ”
” 土星探査機カッシーニの10月28日「プリューム突入」について7つの鍵となる事実 ”

 

NASA は、2020年代中頃の打ち上げを目指すニューフロンティア計画第四期のミッションコンペで、2 案の小天体探査を最終候補として残した。彗星からのサンプルリターンミッションと、土星最大の衛星タイタンでのロータークラフト(回転翼航空機)探査の 2 案だ。
この 2 案は、ニューフロンティア計画のもとで、2017年04月に選抜された 12 案の中から最終候補として選ばれた。
 


Image :
左から、木星探査機ジュノー、冥王星探査機ホライズンズ、小惑星探査機オシリスレックス。ニューフロンティア計画で選ばれた過去のミッションプロジェクト。
Image Credit : NASA
 

NASA の科学局長、Thomas Zurbuchen(トーマス・ザブーケン)は、「選ばれた探査案は、次世代の挑戦的な太陽系科学探査ミッションの発展に寄与し、大きく前進させるものだ」と述べた。
「この 2 案は、今現在、太陽系における最大級の疑問点を解明するための魅力的なミッションである」
 

選ばれた二つの最終候補

CAESAR(Comet Astrobiology Exploration Sample Return, シーザー) - 彗星アストロバイオロジー探査サンプルリターン

画像は、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星でのサンプリングの様子を描いたアーティストコンセプト。彗星は、原始太陽系の記録を保持していると言われている。

シーザーミッションは、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)が、2004年03月02日に打ち上げたロゼッタ(Rosetta)探査機によって探査された彗星である、チュリュモフ・ゲラシメンコ(Churyumov-Gerasimenko, or CG)からのサンプルリターンを目指す。彗星に残る形成起源史とそのプロセスの解明、彗星核からのサンプリングを行い、物質・生命起源の謎を解くことも目的としている。原始星雲からの情報を持つと言われる彗星からサンプリング分析することにより、地球の海洋起源や生命の成り立ちなど、初期の地球にどのように寄与したかを解明する。

火星探査車キュリオシティが持つ一つの研究所のような設備を持てない小天体探査機は、「その場探査」ではどうしても限界がある。はやぶさ探査機の先例が示すように、今後の太陽系探査が「サンプルリターン」を主流とするのは、もはや当然のこととの認識が強くなった。

シーザーは、コーネル大学の Steve Squyres(スティーブ・スクイレス)らが計画を進め、メリーランド州グリーンベルトにある NASA の Goddard Space Flight Center(ゴダード宇宙飛行センター)によって運営される。ゴダードは、NASA 宇宙機の管制・通信の中枢だ。
 

Dragonfly(ドラゴンフライ, トンボ)

画像:タイタンの 1.5 気圧ある大気環境を利用して数百キロもの距離がある観測地点を移動する。表面に直に降りることから、「イナゴ」のようでもある。

ドラゴンフライミッションは、カッシーニ探査機と併載されたホイヘンス着陸船が降り立った土星衛星タイタンを探査する。数十ケ所地点での原始的な生物化学(prebiotic chemistry)、生命の居住性などを探る飛行型探査機だ。
” 2005年、再び訪れたタイタンへの歴史的なランディング  ”(JPL 日本語ニュース)

ドラゴンフライは、メリーランド州ローレルの Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory(ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所, APL)の Elizabeth Turtle(エリザベス・タートル)が lead investigator(主任研究員)を務める。Elizabeth は、ガリレオ探査機、カッシーニ探査機のイメージングチームでもあり、レーダーチームにも属している。タイタン観測ではその任に当たった。天体表面の衝突やそのプロセス、天体のイメージング、マッピングなどの専門家だ。
” カッシーニ探査機「長期ミッションを可能にしたタイタンの存在」 ”(JPL 日本語ニュース)

ファイナリストとなった二つのミッションは、NASA からの資金提供によって2018年末までにコンセプトの発展的展開、ミッションデザインの熟成に当たる。NASA は、2019年の春に最終選択を行い、選ばれたミッションをプロジェクト化することになっている。
 

今回行われているコンペは、NASA ニューフロンティア計画においてシリーズ四回目となる。この計画は、太陽系惑星探査を目的としており、特に次世代に向けた挑戦的なミッションを推奨している。これまで最終採択された三つのミッションプロジェクトは以下の通りである。

1). New Horizons mission(冥王星探査機ニューホライズンズ)
2015年に歴史的な冥王星フライバイミッションが実施され、2019年01月に、エッジワースカイパーベルト天体である2014 MU69(45 km 径程度以下)をフライバイするミッションが決まっている。2014 MU69 がフライバイ可能と報告された際は、” Potential Target 1 ” と呼ばれたそうだ。

2). Juno mission(木星探査機ジュノー)
2011年に打ち上げられた木星探査機で、現在も活発な探査活動を実施中だ。木星衛星の探査も重要なミッションである。

3). OSIRIS-REx(小惑星探査機オシリス・レックス)
1999 RQ36 小惑星ベンヌ(Bennu)からのサンプルリターンを目指している。昨年(2017年)09月には、地球スイングバイが行われ、日本国内では観測キャンペーンが実施された。これは、これまでで初めて行われた、日米共同観測キャンペーンとなった。
” OSIRIS-REx - TPSJ 地球スイングバイ共同キャンペーン特集ページ ”(日本語)
 

NASA はまた、将来ミッション候補として、二つのミッション案に技術開発資金を提供すると発表した。以下に概略を挙げる。

1). Enceladus Life Signatures and Habitability (エンケラドス生命探査と生命存在の可能性, ELSAH)
土星探査機カッシーニが残した大きな課題のひとつは、衛星エンケラドスの氷表面下にある海洋での生命存在確認だ。2005年にカッシーニ探査機がフライバイの際に撮影した氷の裂け目から吹き出すプリューム(間欠泉)の存在は、その後のエンケラドス観測に大きな影響を与えることとなった。
” 土星衛星エンセラダスの地下海に海底熱水活動! ”(東大理プレスリリース、TPSJ 掲載)

ELSAH のコンセプトとして、探査機が天体を汚染させない技術の確立と、それに伴うコストを削いだ優良な生命探査ミッションを目指すことがある。タイタンと併せてエンケラドスを探査することも、カッシーニの後継ミッションとしての意義がある。
” Discovering Enceladus - エンケラドス特集 ”(日本語)

2). Venus In situ Composition Investigations (VICI)
NASA ゴダードの Lori Glaze を中心に開発される VICI のミッション構想は、金星の表面上の岩石・鉱物および元素組成を測定するために開発が進む、”Venus Element and Mineralogy Camera”の性能向上を目指し、厳しい金星表面上環境で安定動作させることを目的のひとつとしている。
 

四回目となる今回のニューフロンティア計画ミッションコンペは、彗星サンプルリターン、月南極サンプルリターン、土星衛星タイタン・エンケラドスの海洋・プローブ探査、木星トロヤ群小惑星マルチランデブー・フライバイ探査、金星着陸探査、以上の六つのテーマに絞って行われた。

NASA ニューフロンティアプログラムとミッションについての詳細は、以下にある。
” New Frontiers Missions List | NASA Planetary Missions ”

 

December 21, 2017 NASA Press Release 原文 : ” NASA Invests in Concept Development for Missions to Comet, Saturn Moon Titan ”

By Year : 2018 / 2017 / 2016 / 2015

 

Creating a better future by exploring other worlds and understanding our own.