The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1997

 

NEARミッション初の目標、小惑星エロス

当月第二稿. [ 1997年03月/04月 ]

Robert W. Farquhar, Donald K. Yeomans

 

1996年2月17日、デルタ2型ロケットに搭載された探査機NEARは、二つの全く異なる小惑星と遭遇すべく打ち上げられた。NEARは、「より速く、より安く、より良く」をモットーとするNASAのディスカバリー計画初のミッションである。このミッションの主眼は、簡素にしてコストの低い探査機の設計である。科学機器、太陽電池パネルおよび高利得アンテナは、可動台ではなく探査機の機体に装着された。これは探査機の操作の複雑を増すものの、ミッション全体のコストを圧縮する点では重要な要因となった。NEARの開発費は1億2500万ドル以下で、1992年度の予算上限額1億5000万ドル以内に十分納まった。

NEARミッションの第一の目的は、地球近傍の大小惑星433エロスを周回することである。これ迄の小惑星との遭遇は、高速のフライバイだけだった。NEARミッションでは、探査機は軌道上の好位置から、初の小惑星の物理特性と表面組成の包括的な調査を行なう。搭載のマルチ・スペクトルカメラで、エロスの形状と3mの分解能でその様々な画像を撮影する。エロスの地表の鉱物特性については、近赤外線分光器により250mの分解能でその分布図が作成される。X線やガンマ線分光器により、アルミニウム、マグネシウム、鉄、カルシウム、硫黄、トリウムおよびナトリウムを含む主要元素の存在量が測定される。これ等の存在量の測定値は地球上で発見された様々な隕石と比較され、エロスがどのタイプの隕石源であるかを確認する。

また磁力計を使って、エロスに自前の磁場があるかどうかを解明する。ライダーと呼ばれるレーザー距離測定機を使って、10m大の精度でエロスの形と表面の形状を測定する。ライダーは光の波動がエロスの表面を往復する時間を測定して、探査機からエロスまでの正確な距離を測る。エロスの質量とその分布は、探査機が軌道上にある間に測定される。つまり、地上の探査機追跡測定計と探査機の光学とライダーによる観測データを合わせて、その必要データが得られるからである。

ディスカバリー計画の指針により安価の打ち上げロケットを使用するため、NEARは回り道をしながら3年かけてエロスに到着するコースをとる。アトラスやタイタンのような大型ロケットを以ってすれば、1年の飛行でエロスを目指すことも可能であったかもしれないが、この場合、総コストは少なくとも5000万ドルかさむことになる。

エロスとの遭遇操作は1998年12月20日から開始され、最初の遭遇(500kmの距離)は1999年1月10日の予定である。その後、探査機は更にエロスに接近し、エロスに15kmの至近距離に接近する軌道上から科学探査を行なう。最後の2ヵ月間の軌道周回では、探査機とエロスの距離は更に狭まり、最大の至近距離に達する。2000年2月6日、遂に、探査機はエロスの軟着陸を敢行する。但し、探査機は着陸の衝撃に耐えられるようには設計されていないので、この時点でNEARミッションは終りとなるはずである。2000年のバレンタインデー迄には、探査機は、ギリシャ神話の愛の神に因んだこの小惑星で未来永劫の人工物として存在することになることだろう。
 

NEAR 探査機データ
総重量:800kg、推進剤:320kg、測定機材:60kg. 科学機材:マルチ分光カメラ、近赤外線分光器、X線分光器、ガンマ線分光器、レーザー高度計、磁気計
 

 

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