The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1998

 

マーズ・グローバル・サーベイヤーが見た火星の嵐と極冠の後退

太陽電池パネルの不備のためにミッションの計画に遅れはあるものの、グローバル・サーベイヤーは目下安定した軌道で火星を周回中です。火星の最高の画像はこれからのお楽しみというところですが、グローバル・サーベイヤーは前例のないほど詳細なデータや画像を送ってきています。本文は、賛否両論が闘わせれている問題の「人間の顔」が存在するシドニア・クレーターに関す小論です。筆者は本誌の編集スタッフです。[ 1998年07月/08月 ]

Jennifer Bohn(本誌編集スタッフ)

 

マーズ・グローバル・サーベイヤー(MGS)が空気制動を利用して、円形に近い軌道で火星を周回し始めてから、オービター搭載のカメラ(MOC)はこの惑星の地表を詳しく探査し、季節の移り変わりも記録した。火星の砂嵐の季節は、晩秋から始まる。最初は地域的な小規模の嵐であるが、11月までには本格化していて、MGSの50回と51回目の周回を行った11月までには次第に大きくなって、数週間も続く大嵐に成長していた。
 

 

嵐が始まる前、MOCは気体が氷に変化した凝結雲と霞を火星の様々な場所で記録した。この画像は、砂荒が起る少し前の、火山の頂上付近の模様で、MGSの48回目の周回時にMOCが撮ったカラー画像を合成したものである。この画像では、火星で最も若い大火山の多くが存在する、タルシス高地の北西周辺にあるタルシス地域の上空を凝結雲が漂っているのが見られる。火山の頂上は青味がかった灰色の霞のためにぼんやりして見える。
 

面白いことに、4日間に及ぶ塵嵐の間、凝結雲は火星の何処にも現れなかったが、塵嵐が和らいでから後の1ヵ月以内に、この凝結雲は同じ火山の同じ場所に現れた。

 

今春、MOCは良く発達した地域的な砂嵐を観測し、一方、バイキング1号のランダーの着陸地を捉えようとした。この画像は、MGSの235回目の周回時に、着陸地を 310 x 90km の幅で撮影したものである。上空の厚い砂嵐のために、バイキング1号の着陸地はははっきり見えないが、それは、この画像の白線で囲まれた長方形のクルセ平原の比較的なだらかな所にある。砂嵐でできるブルーム(砂柱)からすると、風は南西から北東に向かって吹いているようである。塵の雲周辺の黒っぽく沈んだ色に見える領域は、塵の層がすっかり吹き払われた地表のようである。
 

 

季節の移動で形成されたり消え去ったりする氷の極冠は、望遠鏡の観測当初から研究の対象になってきた。MGSは、火星の南極にカメラを向けて、1997年にバイキングが撮影して以来、初めてこの極冠の多様な構造や年間を通して、極冠が後退する様子を撮影した。そのほとんどが二酸化炭素でできた極冠は、昇華(固体から液体の状態を経ずに蒸気に変わる現象)により後退する。

MGSの67~73回目の周回時に撮られた、南極地域の季節変動を示す立体合成画像である。極冠から伸びる明るい霜の半島は、ミッチェル山脈と呼ばれている。砂嵐の状況(時期と強さ)は1977年と1997年とでは著しく異なるが、霜結した極冠とその縁の位置は、バイキングの画像でもMGSの画像でも同じである。ということは、即ち、極冠の昇華現象はほとんど、塵嵐の活動に左右されないことを示している。
 

 

南極の極冠を更に詳しく調べると、構造の異なる複雑な堆積層が見られる。この画像は極冠の斜面と帆立貝状の構造を示したものであるが、↓
 

 

この画像の光景は滑らかで特徴がない。この構造の相違は、堆積物内部の層の性質と強度に差があることと、堆積物の上の水か二酸化炭素の層の厚さの違いによるかもしれない。
 

 

この画像は、直線状の尾根が交差してできた複雑な模様で、おそらく地表層の下にある太古の堆積物が残ったものであろう。しかし、砂丘に似通った地形も見られる。おそらくこの地形の形成には一つ以上の地質過程の変遷が介在しているものと思われる。
 

 

昨年4月早々、MGSは、よく知られ且つ論議の的になっているシドニア平原にカメラを向けて、最初バイキングが撮影した「火星の顔」を、バイキングとは光の当て方を変えて更に詳しく撮影しようとした。

10年以上前、バイキングが撮ったシドニア地区の画像の色を細部が分るように修正した結果、なんとなく人間の顔のように見える地形が発見された。このため、この地形は知的な生物が作った印であると考える者も現れた。新しいMOCはバイキングのカメラよりも10倍も精度が高く、コンピュータ制御の色彩修正機能付きの機能は優れている。

NASAはこの地形についてコメントを加えたり、説明したりすることはせず、むしろ静観したいようである。しかし、MGSプロジェクトの科学者であるアーデン・オルビーはCNNとの会見で、「私自身もそうだが、科学者個人個人は、この地形が何かについて結論は持っているだろう。画像を見た限りでは、地形は天然のもののように見える」とコメントしていた。また、「火星地形図を長年作製してきた人達には、この地形は軟弱な地盤が広い範囲で浸食されてできた地域であると考えられている。例えば、地盤がぎゅっと締まって軟らかい物質が固められ、それが干上がって出来たクレーターがある。この物質はやがて地盤の周りをすっかり浸食して、その後にこのようなクレーターが残ったのである。
 

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