NEO (NEA) 地球近傍小天体探査「NASA Scout によるオンタリオ州(カナダ)上空での小天体の衝突予測」

原文 : November 22, 2022 : NASA Program Predicted Impact of Small Asteroid Over Ontario, Canada


2022 WJ1(仮符号)は発見当時、まもなく地球と衝突するとみられる小さな天体であった。天文学者は発見データを NASA Scout(スカウト:衝突危険度評価システム)に渡し、どこに衝突するかを弾き出した。
 

Imahe caption :
このタイムラプス画像は、スカウトが「2022 WJ1」の突入を予告した後、天文学者ロバート・ウェリックが2022年11月19日に、カナダ・オンタリオ州ロンドンの自宅付近で撮影したもの。その結果、火球は真上でストリークし、分裂するまで東に向かって輝線を描いた。
Credit : Robert Weryk
 

2022年11月19日土曜日の未明、カナダのオンタリオ州南部の上空で、小さな天体が地球の大気圏に突入し、オンタリオ湖の南海岸線に分裂して光り輝きながら小さな隕石をばらまいた。その「火球度」は人々が驚くほどではなかった。この小天体は、衝突の三時間半ほど前に検出され、地球大気圏に侵入する前に宇宙で追跡された史上六回目の出来事となった。

NASA は、地球の大気圏を通過して地上に被害をもたらす可能性のある、規模の大きな地球近傍天体(NEO)の検出と追跡を重要ミッションとしているが、そのような規模の天体は、オンタリオ州南部で崩壊した小さな天体よりもずっと早くに検出されることが多い。今回のような小さな天体の衝突は、地球にとって危機的なものではないが、NASA の惑星防衛能力(発見、追跡、軌道決定、衝突予測)を試すのに良い機会となる。

ワシントンの NASA 本部の Planetary Defense Coordination Office(惑星防衛調整局:PDCO)の NEO 観測プログラム・マネージャー、Kelly Fast(ケリー・ファスト)は、「惑星防衛コミュニティは、この短時間での警告イベントへの対応で、その技術と準備態勢を実証した」と述べた。
「このような無害な衝突機会は自発的な実世界での訓練となり、NASAの惑星防衛システムが、より大きな天体による深刻な衝突の可能性が訪れた場合の対応に貴重な情報を提供する能力があるという確信を与えてくれる」

この小天体は、ツーソンにあるアリゾナ大学に本部を置く NASA Catalina Sky Survey(カタリナ・スカイ・サーベイ)が11月18日の夜、NEO の定期探索中に発見したものだ。この観測結果は、小天体の位置測定を行う小惑星センター(MPC)に速やかに報告され、その後、The NEO Confirmation Page(NEO 確認ウェブ紙)にデータが自動的に掲載された。

NASA JPL(ジェット推進研究所)にある Center for Near Earth Object Studies(近地球天体研究センター:CNEOS)が管理するスカウトは、この確認ウェブ紙から新しいデータを自動的に取得し、天体の軌道と衝突の可能性の計算を開始した。CNEOS は既知の NEA(地球近傍小惑星、NEO と同義)の軌道をすべて計算し、NASA PDCO を支援するために衝突危機の評価を提供している。
 

Imahe caption :
NASA が誇るインタラクティブなウェブアプリケイション、「NASA JPL Eyes」で、「2022 WJ1」が太陽の周りを回る軌道からカナダのオンタリオ州南部上空で大気圏に衝突するまでの様子を見ることができる。画像をクリックすると、別窓で「NASA JPL Eyes」を表示する。引っ張ったり伸ばしたり縮めたりして楽しめる。ここに表示しているのは画像であり、カーソルを当てて何度ドラッグしても 1 ㎜ も動かないので止めたほうがいい。太陽系全体を見たければ、” こちらをクリック ” すると、これも別窓で表示する。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

小天体が MPC の NEO 確認ウェブ紙に投稿されてから 7 分後、スカウトはこの小天体が地球の大気に衝突する確率は 25% で、衝突地点は当初、北米東海岸の大西洋からメキシコに及ぶ可能性があると判断されていた。その後、カンザス州のアマチュア天文家を含む天文コミュニティからさらなる観測データが提供され、天体の軌道と衝突の可能性がある場所がより精密になった。

「このような小天体は、地球に非常に接近したときにしか検出できないので、もし衝突確率が高くなれば、できるだけ多くの観測結果を集めることが重要だ」と、JPL のナビゲーションエンジニア兼スカウトオペレーターの Shantanu Naidu(シャンタヌ・ナイドゥ)は言った。
「この天体は、惑星防衛コミュニティが多くの観測を提供できるほどの早期に発見され、スカウトはそれを基に衝突を確認し、小天体がいつどこで衝突するかを予測したのだ」

カタリナ(スカイ・サーベイ)がその後数時間にわたって小天体を追跡し続けたとき、スカウトは入力される新たなデータを解釈して小天体の軌道と衝突の可能性に関するシステム評価を継続的に更新し、それらの結果をハザード評価システムのウェブページに掲載した。
 

地域社会への貢献

多くの天文学者は、夜通しスカウトのウェブページをチェックし、追跡すべきである最も重要な天体を選定している。カンザス州エスクリッジにあるファーポイント天文台のアマチュア天文家のグループは、一時間以上にわたって小惑星を追跡し、重要な追加データを提供してくれた。その結果、スカウトは衝突確率が 100% であることを確認し、大気圏突入の予想位置を東部標準時11月19日午前03時27分(太平洋標準時午前12時27分)、オンタリオ南部上であることを割り出した。衝突までの残り時間が二時間以上あったため、オンタリオ州南西部所在の科学者に明るい火球が発生することを警告する時間余裕があった。

小惑星の位置は大気圏突入までに 46 回観測され、最後の観測はマウナケアのハワイ大学 88 インチ(2.2 メートル)望遠鏡で、衝突のわずか 32 分前に行われた。

予想通り、東部標準時の午前03時27分(太平洋標準時の午前12時27分)、小天体は地球の大気を浅い角度で通過し、分裂して小隕石のシャワーを発生させながらもダメージを与えることなく地表に散りばめられた。その後、小惑星センターはこの小天体を「小惑星 2022 WJ1」と命名し、宇宙空間での発見を確定させた。

アメリカ流星協会には数十件の目撃情報が寄せられ、スカウトの予言を受けた科学者たちは、小惑星の大気圏突入を撮影することができた。また、一般市民が集めた火球の動画もネット上に公開された。NASAのウェブサイト「Meteorite Falls」では、予測された時刻に火球の破片が隕石としてオンタリオ湖上に落下したことを気象レーダーで検出したことも報告された。小さな隕石はグリムスビーの町の東側で、大きな隕石はマクナブの町の近くで見つかるかもしれない。
 

地球に衝突する前に発見され、追跡された最初の小天体は、2008年10月にスーダン上空で大気圏に突入して分裂した 2008 TC3 である。この小天体は幅 13 フィート(4メートル)の大きさで、ヌビア砂漠に何百もの小さな隕石をばらまいた。今年初めには、2022 EB5 がノルウェー海上の大気圏に突入し、スカウトがその位置を正確に予測した結果、衝突前に検出された五番目の天体となった。
NEA 地球近傍小惑星「NASA Scout(スカウト)システムが小惑星の衝突を予測
調査の高度化と高感度化により、大気圏突入前に検出される無害な天体が増え、NASA の惑星防衛プログラムに実際の演習を提供する良い機会となっている。
 

CNEOS、小惑星、地球近傍天体に関するより詳しい情報は、以下をご覧いただきたい。

Center for NEO Studies

Asteroid Watch

NASA's Planetary Defense Coordination Office(NASA 惑星防衛調整局:PDCO)の詳細については、以下。

Planetary Defense | NASA

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Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

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