NASA 氷衛星探査機 Europa Clipper「表面氷殻の揺れが表層滑りを誘発する氷衛星での衛星震(地震に相当)」

原文 : April 14, 2023 : Icy Moonquakes: Surface Shaking Could Trigger Landslides


NASA による新たな研究から、木星と土星を周回する衛星の不思議なほど滑らかな地形の原因が、衛星震(地震に相当)によるものである可能性が示唆された。
 

Imahe caption :
NASA ガリレオ探査機が撮影した、木星衛星ガニメデの表面。地球上では、地殻変動によって地殻が破壊されると、同じような地形が形成される。科学者たちは、断層活動が表層滑りを引き起こし、氷衛星の表面に比較的滑らかな領域を作ることができるかをモデル化した。
Credit : NASA/JPL/Brown University
 

太陽系の外側に位置する巨大ガス惑星を周回する氷に覆われた衛星の多くは、活発な活動を現在も続けていることは確定された事実として我々は知っている。木星と土星には強い重力があるため、その周りを回る天体が伸びたり引っ張られたりして衛星の表面殻などの構造にひびが入る衛星震が発生する。新しい研究では、これらの衛星震が表層滑り(地滑りに相当)を引き起こし、驚くほど滑らかな形状に「整地」している可能性があることを初めて示唆した。

「Icarus」誌に掲載されたこの研究は、衛星震と表層滑りの関連性を概説し、氷衛星の表面や質感がどのように進化していくかに新たなスポットを当てている。

エウロパ、ガニメデ、エンケラドスなどの氷衛星の表面には、急峻な尾根の周りに比較的平らで滑らかな部分があるのが一般的だ。これは、氷の火山から流れ出た液体によるものだと考えられてきた。しかし、表面の温度が非常に低く、液体が流れにくい環境であるにもかかわらず、そのような現象がどのように起こるのかは謎のままであった。

今回の研究では、衛星表面に液体が存在しないことを示す極めて明快な説明が行われた。科学者たちは、表面殻変動による断層痕と思われる急峻な尾根のサイズを測定した。(地球上のものと同じ)断層痕とは、断層に沿って表面層が割れ、一方が下がることで生じる急斜面である。この測定値を衛星震モデルに当てはめることで、過去の衛星震の規模を推定したところ、衛星震は瓦礫を持ち上げるほどの威力があり、瓦礫は下方に落下して広がり、表面形状を平滑にすることが判明した。

「我々は、衛星震による表層(地表に相当)の揺れは、表層滑りで表面の物質が下へ下へと押し流されるのに十分であることを確認した。衛星震の大きさと表層滑りの大きさも推定できた」と、NASA JPL での一連の夏季インターンシップでこの研究を行った、アリゾナ大学の大学院生である筆頭著者 Mackenzie Mills(マッケンジー・ミルズ)は言った。
「これは、表層滑りが時間の経過とともに衛星の表面を形成しているかもしれないことを示す結果だ」
 

Upcoming Investigations(今後の予定)

2024年にエウロパに向かう NASA の次期ミッション「エウロパ・クリッパー」からは、画像やその他の科学データを我々の研究に提供し、今後の進捗に大きな弾みをつけることになる。「エウロパ・クリッパー」は2030年に木星に到達した後、木星の軌道を周回しながらエウロパを約 50 回フライバイする予定だ。このミッションには、9 機の科学機器が搭載され、深い内部海洋を持つエウロパが生命存在に適した条件を持つかどうかを判断することにある。

「衛星震がどれほど強力なものか、またその震動により、瓦礫を斜面下に簡単に移動させることがわかり、非常に驚いた」。と、このミッションを管理するエウロパ・クリッパーのプロジェクトサイエンティストである共著者の Robert Pappalardo(ロバート・パッパラード)は語る。

特に驚いたのは、土星の衛星エンケラドスでの表面殻変動と衛星震に関するモデリング結果だった。この衛星は、エウロパの表面積の 3 % 以下、地球の約 650 分の 1 でしかない。

「エンケラドスは重力が小さいので、衛星震が起きると氷の破片が表面から宇宙空間に飛び散り、まるで濡れた犬が体を振り払うような状態になる可能性があるんだ」と、パッパラルドは言う。

エウロパに関しては、「エウロパ・クリッパー」が収集する高解像度の画像によって、科学者が過去の衛星震の規模を判断するのに役立つだろう。研究者は衛星震によって氷やその他の表面物質が動いたかどうか、またどの程度動いたかを知るために、最近の研究成果を応用することができるようになる。先ごろ打ち上った ESA(欧州宇宙機関)の木星衛星探査機 JUICE の画像からも、エウロパの隣の木星衛星ガニメデについて同様の情報を得ることができる。

パッパラルドは、「我々の目的は、氷衛星が長い時間をかけて形成された学術的プロセスや、その表面が現在もどの程度活動しているのかについて知ることだ」と述べている。
 

More About the Mission(ミッションの詳細)

エウロパクリッパーなどのミッションは、宇宙生物学の分野、つまり私たちにとって既知である生命が存在する可能性のある遠い氷世界の変数と条件に関する学際的な研究への貢献を促す。エウロパクリッパーは生命探査ミッションではないが、木星衛星エウロパの詳細な観測を行い、氷下に海洋がある氷衛星に、生命を維持する能力があるかどうかを調べる。エウロパの生命居住性を理解することは、科学者が地球上で生命がどのように発達したか、そして我々の惑星地球外において生命発見の可能性についての理解を向上させる。

カリフォルニア工科大学がカリフォルニア州パサデナで管理している JPL は、ワシントンにある NASA の科学ミッション局の APL と協力して、エウロパクリッパーミッションの開発を主導している。アラバマ州ハンツビルにある NASA のマーシャル宇宙飛行センターにある惑星ミッションプログラムオフィスは、エウロパクリッパーミッションのプログラム管理を実行する。

エウロパクリッパーの詳細については、以下を参照いただきたい。

NASA's Europa Clipper
 

News Media Contact

Gretchen McCartney
Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.

Karen Fox / Alana Johnson
NASA Headquarters, Washington

2023-053



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office