NASA ボイジャー探査機「NASA Voyager(ボイジャー)ミッション、新たな電力戦略でさらなるサイエンスに挑む」

原文 : April 26, 2023 - NASA’s Voyager Will Do More Science With New Power Strategy


編集部注:05月01日、科学機器の停止が始まった後も、ミッションが継続されることを強調する文言を追記した。

今回の措置により、ボイジャー2号機の科学機器は従来の予想よりも数年長く作動し続けることになり、星間空間からのさらなる発見が可能となる。
 

1976年、JPL にある宇宙シミュレータチャンバーで撮影されたボイジャー実証実験モデルは、1977年に打ち上げられた二機のボイジャー探査機を模したものである。このモデルのスキャンプラットフォームは右側に伸びており、探査機の科学機器のいくつかを展開した状態を保っている。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

1977年に打ち上げられたボイジャー2号機は、地球から 120 億マイル(200 億キロメートル)以上離れた場所にあり、五つの科学機器を使って星間空間を観測している。老朽化した宇宙機の電力供給は減少しているが、これら科学機器を作動させるために、機内の安全機構の一部として確保されていた小さな予備電力の使用を開始した。これにより、科学機器の停止を今年ではなく、2026年まで延期することができるようになった。

科学機器のスイッチを切っても、ミッションが終了するわけではない。2026年に一つの機器を停止した後も、さらなる電力供給の低下により別の機器を停止する必要が生じるまで、探査機は残りの四つの科学機器を稼働させ続ける。ボイジャー2号機本体が良好な状態であれば、この先さらにミッションを継続できる可能性があると技術陣は予想している。
 

ボイジャー2号機の双子の探査機である1号機は、太陽から発生する粒子と磁場による泡状の保護領域(heliosphere:ヘリオスフィア、太陽圏)を脱出して活動した最初の宇宙機だ。この探査機はヘリオスフィアの形状や、星間空間領域(interstellar)に存在する高エネルギー粒子やその他の放射線から地球を保護するメカニズムについて、科学者にその解明への手掛かりを与え続けている。

「ボイジャーが返す科学データは、太陽から遠く離れるほど価値が高まるので、できるだけ多くの科学機器を長く稼働させることが望ましい」と、ボイジャーのプロジェクトサイエンティストである NASA JPL の Linda Spilker(リンダ・スピルカー)は述べている。
 

Power to the Probes(探査機の電源供給)

二機のボイジャー探査機は、放射性同位体熱電気転換器(RTG:原子力電池)によって電力が供給される。この発電機は、崩壊したプルトニウムの崩壊熱によって電力を発生させる。プルトニウムが崩壊していくにしたがって発電量は毎年少しずつ減少していく。今のところ、電力供給の減少が探査機の科学的成果に影響を与えるに到らないが、その損失を補うためにヒーターなど、探査機の飛行に不可欠でないシステムの電源を切っている。

しかし、ボイジャー2号機ではそのような選択肢は既に無いため、五つの科学機器のうちの一つが停止対象となった。1号機は、ミッションの初期に故障した機器があるため、2号機より一つ少ない科学機器で運用している。そのため、1号機の科学機器を停止させるかどうかの判断は、来年のある時期まで持ち越されることになっている。

NASA ボイジャー探査機には、三基の放射性同位体熱電気転換器(RTG)が搭載されている。RTG は、プルトニウム 238 の崩壊によって発生する熱を電気に変換し、探査機に電力を供給する。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

ボイジャー2号機の科学機器を停止させない方法を探るため、研究チームは、宇宙船の電圧(電気の流れ)が大きく変化した場合に機器を保護するための安全機構を詳しく調べた。ボイジャーは、電圧の変動が機器にダメージを与える可能性があるため、このような場合にバックアップ回路を作動させる電圧調整器を備えている。この回路は、RTG から少量の電力を取り出して実行される。

その結果、宇宙船の電圧は厳しく制御されず、45 年以上飛行した現在も両機の電気システムは比較的安定しており、セーフティネットの必要性を最小限に抑えることができる(つまり、安全機構への電力供給を遮断できる)。また、エンジニアリングチームは電圧を監視し、変動が激しい場合には対応することができる。この新しいアプローチがボイジャー2号機でうまくいけば、1号機にも導入できるかもしれない。

「電圧の変動が機器に与えるリスクは小さく、それによって科学機器への電源投入を長く続けることができるという大きな利益が得られると判断した」と、JPL のボイジャープロジェクトマネージャー、Suzanne Dodd(スザンヌ・ドッド)は言う。
「我々は数週間にわたって探査機を監視してきたが、この新しいアプローチはうまくいっているようだ」

ボイジャーミッションは当初、土星と木星を通過する両探査機を送る、わずか四年の予定であったが、NASA は、ボイジャー2号機が海王星と天王星を訪問できるようにミッションを延長した。このミッションは、氷の「巨人」に遭遇した唯一の宇宙機である。1990年、NASA は再びミッションを延長し、今度は太陽圏の外に探査機を送り出すことを目標にした。ボイジャー1号機は2012年に太陽圏の境界であるヘリオポーズに到達し、ボイジャー2号機(双子の探査機とは進行方向が異なる)は2018年にヘリオポーズに到達した。
 

ボイジャーの詳細は以下からご覧頂きたい。

https://voyager.jpl.nasa.gov/
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office