NASA 氷衛星探査機 Europa Clipper「NASA はどのようにして Europa Clipper(エウロパ・クリッパー)探査機を木星の強力な磁場から護るのか」

原文 : October 24, 2023 : How NASA Is Protecting Europa Clipper From Space Radiation


謎に包まれた氷の衛星 Europa(エウロパ)を探査するためには、木星を取り巻く放射線と高エネルギー粒子の爆撃に耐える必要がある。
 

Imahe caption :
10月07日、JPL の宇宙船組立施設のメインクリーンルームで、エウロパ・クリッパーの「保管庫」を閉じるエンジニアと技術者たち。この「保管庫」は、木星を周回する宇宙船の電子機器を保護する。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

NASA Europa Clipper(エウロパ・クリッパー)が木星を周回し、氷に覆われた衛星エウロパが生命に適した環境にあるかどうかを探査し始めることは、探査機にとっては太陽系で最も過酷な放射線環境を何度も通過することである。

その放射線による潜在的なダメージから探査機を守るのは容易なことではない。しかし10月07日、ミッションは、エウロパ・クリッパーの高度な電子機器をシールドするために特別に設計されたコンテナである「金庫」を密閉し、探査機の「装甲」の最後のピースを設置した。探査機は、2024年10月の打ち上げに向けて、南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)の宇宙機組立施設で、一つまた一つ組み立てが続けられている。

「コンテナ(保管庫)を閉じる段階は、大きなマイルストーンである」と JPL のエウロパ・クリッパーの副フライトシステム・マネージャーである Kendra Short(ケンドラ・ショート)は語った。
「それは我々がそこに揃えるべきものが総て揃ったということだ。準備はできた」
 

JPL のクリーンルームで、エウロパ・クリッパー・ミッションのチームメンバーと一緒に宇宙船の設計について学びましょう。
 

厚さ 1 センチ弱のアルミニウムの「保管庫」には、宇宙機の一連の科学機器の電子部品が収められている。各電子部品を個別に遮蔽する代替案は、宇宙機にコストと重量を加えることになる。

「この薄く全体意を覆う「保管庫」は、ほとんどの電子機器にとって放射線環境を許容レベルまで下げるように設計されている」と、エウロパ・クリッパー放射線フォーカス・グループの共同議長で宇宙放射線の専門家である JPL の Insoo Jun(インソ・ジュン)は語った。
 

懲罰的放射線

木星の巨大な磁場は地球の 20,000 倍の強さで、10 時間の自転周期に合わせて高速で回転している。この磁場が木星の宇宙環境から荷電粒子を捕獲して加速し、強力な放射線帯を作り出す。放射線は常に物理的な存在で、一種の宇宙天気であり、影響圏内のあらゆるものに有害な粒子を浴びせる。

「木星は太陽系で太陽の次に最も強烈な放射線環境を持っている」とジュンは言う。
「放射線環境はミッションのあらゆる側面に影響を及ぼすことになる」
 

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木星周回軌道にさまざまな観測機器を搭載し、エウロパの大気、地表、内部に関する情報を収集するために何度も接近飛行を行うエウロパ・クリッパーの想像図。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

探査機が2030年に木星に到着しても、エウロパ・クリッパーは単にエウロパの周回軌道に停まるわけではない。その代わりに、木星系を探査した過去の宇宙機のように、木星とその過酷な放射線からできるだけ離れるために、木星そのものを広域に渡って周回する。木星を周回する間に、探査機はエウロパの近くを 50 回近くフライバイして科学データを収集することになる。

JPL の惑星科学者で、エウロパや土星のエンケラドスなど、氷の外側の衛星を専門に研究している Tom Nordheim(トム・ノードハイム)は、「放射線は非常に強く、科学者たちはそれがエウロパの表面を変化させ、目に見える色の変化を引き起こしていると考えている」と語った。

「エウロパの表面上の放射線は、主要な地質学的修正プロセスだ。エウロパを見ると、赤褐色をしているが、これは放射線による影響であることは間違いない」とノードハイムは言う。
 

混沌とした氷の世界

エンジニアたちがエウロパ・クリッパーが放射線の影響を受けないように努力しつつも、ノードハイムやジュンのような科学者たちは、探査機が受ける放射線を精査し、木星の強大な磁場を研究したいと考えている。

「エウロパ・クリッパーは、専用の放射線モニタリング・ユニットを搭載し、観測機器からの日和見的な放射線データを利用することで、木星のユニークで困難な放射線環境を明らかにするのに役立つだろう」とジュンは語った。

ノードハイムは、エウロパの「カオス地形」、つまり表面物質のブロックがばらばらになり、回転し、新しい位置に移動しているように見える領域に注目している。

氷に覆われた衛星表面の地下深くに広大な液状の海洋があり、生命が生息可能な環境を提供している可能性があると科学者たちは考えている。エウロパの表面には、地下から地表に物質が移動した痕跡が見られる場所もある。
「放射線がその物質をどのように変化させたか、その背景を理解する必要がある。放射線は物質の化学組成を変化させる可能性があるからだ」とノードハイムは言う。
 

与えられる熱の力

エウロパの氷下海洋は氷の包みに閉じ込められているため、可能性のある生命体は、地球の植物のようにエネルギーを直接太陽に頼ることはできないだろう。その代わりに、熱や化学エネルギーといった別のエネルギー源が必要になる。エウロパの地表に降り注ぐ放射線は、放射線が地表の氷層と相互作用することによって、酸素や過酸化水素などの酸化物質を生成し、そのようなエネルギー源を提供する役割を持っている可能性がある。

時間が経つにつれて、これらの酸化物質は地表から内部の海へと運ばれる可能性がある。
「表面の氷殻は氷下海洋を覗く窓かもしれない」とノードハイムは言う。
「このようなプロセスの理解が深まれば、木星系の秘密をさらに解き明かす鍵になるかもしれない。それは太陽系形成史という物語の一部なのだから」
 

More About the Mission(ミッションの詳細)

エウロパクリッパーなどのミッションは、宇宙生物学の分野、つまり私たちにとって既知である生命が存在する可能性のある遠い氷世界の変数と条件に関する学際的な研究への貢献を促す。エウロパクリッパーは生命探査ミッションではないが、木星衛星エウロパの詳細な観測を行い、氷下に海洋がある氷衛星に、生命を維持する能力があるかどうかを調べる。エウロパの生命居住性を理解することは、科学者が地球上で生命がどのように発達したか、そして我々の惑星地球外において生命発見の可能性についての理解を向上させる。

カリフォルニア工科大学がカリフォルニア州パサデナで管理している JPL は、ワシントンにある NASA の科学ミッション局の APL と協力して、エウロパクリッパーミッションの開発を主導している。アラバマ州ハンツビルにある NASA のマーシャル宇宙飛行センターにある惑星ミッションプログラムオフィスは、エウロパクリッパーミッションのプログラム管理を実行する。

エウロパクリッパーの詳細については、以下を参照いただきたい。

NASA's Europa Clipper
 

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Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.

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2023-120



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office