NASA 氷衛星探査機 Europa Clipper「NASA Europa Clipper(エウロパ・クリッパー)観測機器がすべて搭載される」

原文 : January 30, 2024 : Poised for Science: NASA´s Europa Clipper Instruments Are All Aboard


探査機に追加された複雑な観測機器群によって行われる科学は、木星の衛星エウロパが生命を維持できる条件を備えているかどうかを明らかにする。
 

Imahe caption :
2024年01月19日、ジェット推進研究所のハイベイ 1 のクリーンルームに設置されたエウロパ・クリッパー。宇宙船を囲むテントは、電磁気試験をサポートするために建てられた。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

打ち上げまでのカウントダウンが残り九ヶ月を切った今、NASA Europa Clipper(エウロパ・クリッパー)・ミッションは大きな節目を迎えた。南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)で組み立てられている巨大な探査機に、科学機器が追加された。

今年10月にフロリダのケネディ宇宙センターから打ち上げられる予定の探査機は、木星の氷に閉ざされた衛星エウロパに向かう。エウロパ・クリッパーは着陸するのではなく、2030年に木星系に到着した後、四年間の木星周回を通じてエウロパを 49 回フライバイし、9 基の強力な科学観測装置群を用いて、衛星が生命棲息可能な環境である可能性を調査する。
 

木星の氷衛星エウロパは、生命に適した条件を持つ可能性のある広大な内部海洋を保持している。NASAのエウロパ・クリッパー・ミッションは、科学者たちが我々の惑星以外の生命生存可能な世界の可能性をよりよく理解するのに役立つだろう。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

「この観測機器群は、エウロパに関する我々の最も差し迫った疑問に答えるために、複合的な調査を行う」と JPL のプロジェクト・サイエンティスト、Robert Pappalardo(ロバート・パッパラルド)は語った。
「エウロパの核や岩石質の内部から、表面下海洋や氷殻、非常に薄い大気や周囲の宇宙環境まで、何がエウロパを動かしているのかを知ることができるだろう」

エウロパ・クリッパーの科学探査の特徴は、ミッションの科学目標を達成するためのデータ収集中に、すべての観測機器がどのように同期して動作するかにある。各フライバイの間、完全に配列された機器は、エウロパの全体像を描くために一緒にレイヤーされる測定値と画像を収集する。

「同時に観測を行えば、科学はより良いものになる」とパッパラルドは言った。
「我々が目指しているのは統合であり、どの時点でもエウロパを研究するために総ての観測装置を同時に使用し、それらの間でトレードオフをする必要がないようにすることである」
 

内側から見る

エウロパ周辺の環境を調べることで、科学者たちは衛星の内部についてより深く知ることができる。探査機には衛星周辺の磁場を測定する磁力計が搭載されている。磁場は、エウロパが木星の強力な磁場の中を移動する際に、海の塩水の電気伝導度によって生成(誘導)されるからだ。磁力計と連動するのは、磁場を歪ませるエウロパ周辺のプラズマ(荷電粒子)を分析する装置だ。これらを組み合わせることで、正確な測定が可能になる。

エウロパの大気についてミッションが得る知見は、衛星の表面と内部についての洞察にも繋がるだろう。大気圧は地球大気の 1000 億分の 1 と微弱だが、科学者たちは大気が衛星に関する手がかりの宝庫であると期待している。宇宙と地上の望遠鏡から、衛星表面の下から水蒸気の噴出があるかもしれないという証拠が得られており、過去のミッションの観測から、氷や塵の粒子が微小隕石の衝突によって宇宙空間に放出されていることが示唆されている。

大気とそれに関連する微粒子の調査には、三つの装置が担う。質量分析計はガスを分析し、表面ダスト分析計はダストを調べ、分光器は紫外線を集めてプルームを探索し、ダイナミックな大気の特性が時間とともにどのように変化するかを特定する。

その間ずっと、エウロパ・クリッパーのカメラは表面の広角と狭角の写真を撮り続け、エウロパ初の高解像度の全球マップを作成する。立体的なカラー画像は、地質活動による地表の変化を明らかにする。温度を測定する別のイメージャは、水や最近の氷が堆積している可能性のある暖かい地域を特定するのに役立つ。

画像分光計は、月面の氷、塩、有機分子をマッピングする。また、高度なイメージャは、一連のデータのコンテキストを提供するビジュアルを収集することによって、観測装置一式をサポートする。

もちろん、科学者たちは氷殻自体についても理解を深める必要がある。厚さ約 10~15 マイル(15~25 km)と推定されるこの外氷殻は、地質学的に活発である可能性があり、その結果、表面に亀裂パターンが生じる可能性がある。このミッションでは、レーダー装置を使用して、氷殻の中や下に水があるかどうかも含めて調査する。(レーダー装置の電子機器は現在探査機に搭載されており、アンテナは今年後半にケネディで探査機の太陽電池アレイに取り付けられる予定だ)

最後に、エウロパの内部構造である。それをより詳しく知るために、科学者たちは木星を回る軌道のさまざまな地点で月の重力場を測定する。探査機から送信された信号が、エウロパの重力によってどのように引っ張られるかを観測することで、月の内部についてより詳しく知ることができる。科学者たちは、この科学観測に探査機の通信機器を使用する。

探査機に搭載された 9 基の観測機器と通信システムがすべて揃ったことで、ミッション・チームは初めて探査機全体のテストを開始した。エウロパ・クリッパーのテストが完了したら、チームは探査機をケネディに輸送し、スペース X 社のファルコン・ヘビー・ロケットでの打ち上げに備える。
 

More About the Mission(ミッションの詳細)

エウロパクリッパーなどのミッションは、宇宙生物学の分野、つまり私たちにとって既知である生命が存在する可能性のある遠い氷世界の変数と条件に関する学際的な研究への貢献を促す。エウロパクリッパーは生命探査ミッションではないが、木星衛星エウロパの詳細な観測を行い、氷下に海洋がある氷衛星に、生命を維持する能力があるかどうかを調べる。エウロパの生命居住性を理解することは、科学者が地球上で生命がどのように発達したか、そして我々の惑星地球外において生命発見の可能性についての理解を向上させる。

カリフォルニア工科大学がカリフォルニア州パサデナで管理している JPL は、ワシントンにある NASA の科学ミッション局の APL と協力して、エウロパクリッパーミッションの開発を主導している。アラバマ州ハンツビルにある NASA のマーシャル宇宙飛行センターにある惑星ミッションプログラムオフィスは、エウロパクリッパーミッションのプログラム管理を実行する。

エウロパクリッパーの詳細については、以下を参照いただきたい。

NASA's Europa Clipper
 

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Gretchen McCartney
Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.

Karen Fox / Alana Johnson
NASA Headquarters, Washington

2023-120



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office