世界に挑んだ高校生たち
ACM 2012 報告記

谷川智康1,井上哲秀2,高村裕三朗3
1. 兵庫県立三田祥雲館高校, 2. 福岡県立小倉高校, 3. 愛知県立一宮高校

※ この遊星人記事は、日本惑星科学会遊星人編集専門委員会より許可を得て掲載しております。
 


1. はじめに

新潟コンベンションセンター朱鷺メッセで,5月16日 - 20日の会期で開催された国際会議「小惑星・彗星・流星会議 2012」(以下ACM)に世界の研究者と共に日本の高校生が参加しました.小倉高校のスーパーサイエンスハイスクールのプログラム「小惑星の共同研究」に参加し,共同研究していた小倉高校科学部(福岡),一宮高校地学部(愛知),三田祥雲館高校天文部(兵庫)の三校の生徒達です(画像 1).三校は昨年秋,国立天文台三鷹キャンパスで開催されたライトカーブ研究会で発表しましたが,その会に出席されていた ACM の組織委員会委員長を務める佐々木晶教授からお誘い頂いたのがきっかけでした.
 

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画像 1. 発表前に三校の生徒が集合し記念写真.
Image : 遊星人
 

2. 当日の様子

学校の授業の関係で生徒は19日(土)のポスターセッションに参加しました.準備の期間には新入生の勧誘をしたり,発表 2 日後に控えている金環日食観測の準備も相まって生徒はかなり疲れた状態で発表当日を迎えました.会場に到着後,受付を終えオーラルセッションが行われていた巨大なメインホールに入ると,二 ~ 三百人もの聴衆を前に発表が行われていました.内容が難しい上に英語のスピードも速いので,なかなか内容はつかめませんでした.映画の一場面のような会場の雰囲気に生徒の緊張も高まっていきます.オーラルセッションの最後に三校の生徒は壇上にて紹介を受け大きな拍手で歓迎されました.昼食をはさんで発表練習をした後,いよいよポスター発表の時間となりました.発表のタイトルは表 1 の通りです.各校とも普段から取り組んできた研究の成果を英語のポスターにまとめ,練習に励んできました.
 

表 1 : 各校のタイトルと発表内容.

学校名 小倉高校
タイトル Inspection of Asteroid's Shape with the Clay Model
本年度は,短期間でライトカーブの変化が起きる,小惑星(584)Semiramis の形状決定を試みた.
3 ヶ月で 20 夜を越えるライトカーブを得た後に,粘土モデルの再現実験では小惑星・太陽・地球の位置関係を再現した上で,粘土モデルによるライトカーブの再現を行った.
学校名 一宮高校
タイトル Analysis from Stellar Occultation and Light curve Observation of 582Olympia
私達は小惑星の立体形状を 2 つの観測を用いて推測している.
1 つは小惑星・恒星間での掩蔽現象の観測で,観測した減光時間を元に小惑星の断面図を算出することができる.
もう 1 つは測光観測で,小惑星のライトカーブを求め,自転周期と投影面積比がわかる.この 2 つを合わせて小惑星の立体形状を算出する.
学校名 三田祥雲館
タイトル Photometric Observations of Comet C/2009 P1( Garradd)
2009 P1 ギャラッド彗星を昨年の夏から秋にかけ多色測光を行った結果を報告.
V,B,R,I バンドで行った測光観測から,V―I の結果を用いて近日点に近づくに連れ V バンド(ガス成分)が強くなって行く様子を,短周期彗星の結果と比較しながら明らかにした.

 

事前に紹介されたこともあって,多くの研究者が生徒のポスターを訪れてくれました.さすが ACM だけあって Asher 博士や Binzel 博士など,各分野を代表する先生方の顔が見えます.それらの先生方に向かって,生徒が英語でプレゼンテーションしているのは,何か不思議な光景でした.聴衆の先生方が温かく聞いて下さるのもあって,回を重ねるごとに生徒達の発表も乗ってきた様子で,聴衆の質問にも笑顔で答える余裕が出てきました(画像 2).
 

Image Caption :
画像 2. 会場でのポスター発表の様子.
Image : 遊星人
 

3. 生徒の感想

小倉高校

最初は戸惑ったが,慣れてくると何とか相手の言っている内容を聞き取ることができました.こちらの研究内容は,発表用のポスターに加えて,実験の様子の写真を使ったり,粘土モデルを使ったりする中で伝えることができました.さらに,私たちの粘土モデルを使った手法に対して,コンピュータグラフィックには無い長所があることを教えていただき,この手法での研究を続けて欲しいとアドバイスを頂きました.私たちの手法が海外の研究者から評価を頂いたことは,大変価値があることだと感じました.
 

一宮高校

まず何よりも自分の英語力の低さを痛感しました.聞き返すことが多くスムーズに話すことはできませんでした.また最初は英語で発表することに消極的でなかなか話すことができませんでした.しかし途中から,「こんな機会はない!楽しもう!」と積極的に発表することができました.
 

三田祥雲館

始まる前はポスターを置いて逃げ出したいような気持になりましたが,いざポスターセッションが始まると無我夢中で説明していました.終わってみるとすごい舞台に立てた自分が信じられなくて今も夢のような気持ちです.もっと英語力を鍛えて次の機会には研究者の皆さんのアドバイスを直接受け止められるよう頑張っていきたいと思います.
 

4. ACM を終えて

新年度がスタートしてからは生徒も私たち教師も年度当初特有の忙しさに加え,今年は金環日食の準備と ACM の準備に忙殺されました. 準備不足のせいか始まる前は緊張して堅くなっていた生徒の表情を見て,通訳を必要とする場面もあるのかとの心配は杞憂に終わりました.約 1 時間半のポスターセッションの時間を終え,生徒達も私たち教師も心地よい興奮の中,会場を後にすることができました.

今回 ACM での研究発表を記念して,小惑星の名前(※ 1)を頂いた事も非常にありがたかったのですが,何物にも負けない大きな自信が生徒の心に残った事が最大の成果ではないかと思っています.参加者の皆様からも好評を頂いたようで,今後の活動の大きな励みとなります.最後になりましたが,ご支援,ご協力を頂きました多くの皆様,本当にありがとうございました.
 

※1 今回の ACM で研究発表した 3 校の名前が小惑星に命名されました.(15526)Kokura,(19853)Ichinomiya,(15552)Sandashounkan の 3 つです.
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Web edited : A. IMOTO TPSJ Editorial Office