The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1997

 

マーズ・パスファインダーの火星着陸成功で盛上がったプラネットフェスト '97

[ 1997年11月/12月 ]

Jennifer Bohn(本誌編集スタッフ)

 

1997年7月4日、エアーバッグに収納されたマーズ・パスファインダーは、火星の表面でバウンドして停止する数時間前、そしてそれは午前10時に始まるプラネットフェストの大分前から、熱心な観客がカリフォルニアのパサデナ・センターに集まっていた。

惑星協会のフリードマン専務理事は、プラネットフェストの開始時間を繰り上げることにした。週末の3日間、毎日7000人の観客が会場のパサデナ・センターに詰め掛け、地球から遥か彼方の惑星への素晴らしい旅の成功で、祝賀会は新たな興奮で最高潮に達した。

7月4日の午後、初めてマーズ・パスファインダーの姿が 8m 四方のビデオ画面一杯に現われると、立ち見客で立錐の余地のない定員1800人収容のメイン・ホールから万雷の拍手が起こった。会場の観客全員、21年ぶりに火星に降り立ち周りを見回すような気分に浸った。ミッション管制室にいたJPLの科学者達も会場に現われ、観客と共にマーズ・パスファインダーの完璧な着陸と撮影カメラから送られてくる素晴らしい画像に見入った。

プラネットフェスト'97では宇宙科学のリーダーが集い、最新の技術革新の成果が披露され、未来の宇宙探査の展示会も行われ、大成功であった。
 

JPL経由で火星から生中継

会期中火星から送られてくる映像を見るために、メイン・ホールには観客が詰め掛けた。この生中継と合わせて、この会場では講演、パネルディスカッションそして今日の宇宙探査に貢献した偉大な人達を称えるセレモニーも行われた。この感動的なセレモニーの中で、NASAダン・ゴールディン長官がマーズ・パスファインダー・ランダーを「カール・セーガン記念基地」と命名した旨、故カール・セーガン博士の妻であり共同執筆者でもあるアン・ドルーヤン氏に伝達した。

ドルーヤン氏の謝辞で盛り上がった雰囲気の中で、パスファインダー・プロジェクトの総括責任者のトニー・スピア氏が、10万人の惑星協会会員の名前をプリントしたマイクロチップが火星のセーガン記念基地に置かれているとの特別声明を発表した。このマイクロチップは1993年、旧ソ連の失敗に終ったマーズ96に搭載された「火星の眺」(Visions of Mars)の複製である。
 

メイン・ホールの 8m 四方のスクリーンに映し出されたマーズ・パスファインダーの新しい火星の故郷。フライト・システム・エンジニアのロブ・マンニングが成功したランダーの降下と着陸の模様を来場者に説明した。
 

 

惑星協会の貢献を称えるセレモニーで、宇宙飛行士のストーリー・マスグレーブから、惑星協会のロゴ入りバナーの贈呈があった。このバナーは、ストーリーの最後の飛行の際にスペースシャトルに持ち込まれたものである。左から、惑星協会のブルース・マレー会長、ストーリー、惑星協会ルイス・フリードマン専務理事、そして惑星協会ボードメンバーのアン・ドルーヤン。
 

 

火星の地表を模した地面の障害物を征服して動くレゴのミニ・ローバー。来場者の注目を浴びた。
 

 

プラネットフェスト'97の目くるめくような刺激的な展示物の中で、子供の注目は自然にNASA公認の宇宙服に引き寄せられた。
 

 

展示と講演会

メイン・ホール外の会場は宇宙やミッションを解説する展示や記念物、本のサイン会や記念品引換え券の配布などで大変な賑わいだった。展示の一つに二酸化炭素を豊富に含む火星の大気から推進薬(探査機が火星から地球に帰還する際に使用する燃料)を作り出す装置のプロトタイプのデモが行われていた。また、火星の微小生命の化石を宿しているとも言われている有名な隕石ALH84001には、見物客の流れが絶えることはなかった。

この他ガリレオ、カッシニ、スターダスト、プルート・エキプレス、NEAR(地球近傍小惑星探査機)、マーズ・グローバル・サーベイヤー、そして当然のことながらマーズ・パスファインダーなど近未来のミッションの展示も行われた。

三日間開催されたディスカバリー・シンポジウムでは、著名な科学者や技術者が講演会やパネル・ディスカッションに参加した。7月4日には、スペイン語によるセミナーが特別企画として実施された。スペース・シャトルで6回飛んだ宇宙飛行士のストーリー・マスグレーブ氏は、飛翔の経験談を詳しく語った。

史上最も大勢の人達が観測した彗星の発見にまつわるトーマス・ボップ氏の講演には、詰め掛けた聴衆で会場は満杯だった。パネルディスカッションのパネリストとして、火星探査計画の総括責任者ドナ・シャリー氏を含む著名な女性科学者および技術者が近年の惑星探査に於ける女性参加の障害と可能性の両面から討論を行なった。

メディアの注目度も高く、新聞・テレビの報道記者や(世界ネットのCNNからは2名)が集まり、来場者、講演者、展示関係者などをインタービュしながら、会場の盛上がった模様を実況中継した。同時中継局のNASAテレビは、数km離れたJPLの様子を来場者に放送した。
 

未来のミッションを担う子供のためのプログラム

会場外のテラスを仕切って設けられた子供コーナーのチャイルド・ユニバースでは、集まった子供たちに宇宙科学の面白さと素晴らしさを伝える催しが行われた。子供たちはグループに分かれ、惑星協会のスタッフやボランティアの指導で宇宙科学ゲームなど沢山のプログラムに参加した。パサデナの昼下がりの暑さにも拘わらず、子供達は会場をあちこち移動して盛りだくさんのプログラムを楽しんだ。

チャイルド・ユニバース近くの科学館では、300人以上の子供達が水ロケットを作り、全部で1500個の水ロケットを打ち上げた。また子供も大人もの火星地表を模したコーナーに集まり、6台のミニ・ローバー(Red Rover, Red Rover)を操作して、岩石の障害物やデコボコの土のある地表の上を移動させた。またもう一つの模擬火星地表のコーナーがあり、来場者はコンピュータを使ってそこのローバーだけでなく遠く離れたイリノイ州、ジョージア州、そしてフロリダ州にあるローバーの操作を行った。
 

世界的な連帯

プラネットフェスト'97の模様は、パサデナの会場を越えて遥か彼方に広がっていった。ウェブ・サイトから発信されるマーズ・パスファインダーの火星着陸や講演会の模様は、インターネットを通して世界中でモニターされた。

マーズ・パスファインダーを収納したエアーバッグがバウンドして火星に着陸する模様を送る17のウェブサイトのヒット数は、一日でほぼ3000万回に達した(7月8日のNASAのウェブサイトのヒット数は、4500万回と最高潮に達した)。惑星協会のウェブサイトは、来場者に次々と最新情報を流した。プラネットフェスト開催期間中のこのウェブサイトへの接続回数は、60万回を上回った。

会場には100ヵ所以上のコンピュータ基地が設けられて、遠隔地でプラネットフェストを祝う人達に会場の模様を中継した。ゲートウエー2000、アースリンク・ネットワークおよびロスアンゼルス地区学校連合の協力で、サンマイクロ社が提供した70台以上のハイパワーのワークステーションがこれに対応した。NASAのインテグレーテド・システムズ・ネットワークとシスコ・システムズ社がインターネットの接続、グラハム・テクノロジー・ソリューション社がビデオとオーディオによる生中継を受け持った。

このような協力のお陰で、プラネットフェスト'97は本当に世界をあっと言わせる素晴らしいイベントになった。
 

プラネットフェスト'97のアーカイブ化

サン・マイクロシステムズ社はノースカロライナ州立大学と惑星協会の協力で、プラネットフェスト'97のほとんどをビデオ収録した。WWWのユーザーは、プラネットフェスト'97の模様をサン・マイクロシステムズ社のサン・サイトか惑星協会のホームページからダウンロードできる。惑星協会はこの他様々なコンピュータ技術を駆使して、遠からず新しい時代の惑星探査に関する知識や情報を普及させるようになるであろう。

数多くのエキサイティングなミッションが登場する新世紀を控えて、惑星協会は次のプラネットフェストに向けてギアを入れ替えつつある。1999年12月3日、火星の南極の極冠近くに着陸予定のマーズ・サーベイヤー・ランダーが行なう探査は、今までのミッションでも最も興味深いものの一つになるはずである。ランダーには惑星協会が支援する火星の音を収録するマーズ・マイクロホン(Mars Microphone)が搭載される。

更に1999年12月初め、ガリレオのエウロパ・ミッションが終了する予定であり、このミッションの数々の発見に立ち会うことになるであろう。次回のプラネットフェストの日時は未定であるが、間もなくその計画に着手する予定である。お見逃しのないよう、プラネタリー・レポートの最新情報にご注意下さい。
 

マーズ・パスファインダーミッションの総括者のトニー・スピアも暇を見て、管制司令室からプラネットフェスト'97の祝賀会に駆けつけた。
 

 

火星隕石南極調査隊の幹部のエバレット・ギブソン(左側)とデービッド・マッケイ(右側)に挟まれて、誇らしげにポーズをとるNASAのダン・ゴールディン長官。
 

 

パネル・ディスカッション「科学する女性」の女性パネリスト達。左から、アドリアナ・オカンポ、ドナ・シャーリー、エレノア・ヘラン、サンドラ C.ミアレッキ、エレン・ストファンおよびカーリ・マギー(以上、敬称略)。
 

 

筆者, ジェニファー・ボーン:本誌の編集スタッフで、プラネットフェスト'97の実行委員を務めた。
 

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